「……すごい。ホントにすごい。格好良いよ明葉!!」
明葉大変身。
七月一日。日曜日。午後六時。新宿。
「……大丈夫ですかね。おかしくないでしょうか……」
「背筋はシャンと伸ばす!!」
「は、はい!」
劇団関係者のイルカさんの顔パスでなんとか雪菜の楽屋まで来た。
コンコン。
ノックしてイルカさんが声をかける。
「雪菜ちゃーん!! 彼氏さんが来たよー!!」
「イルカさん!!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。扉が豪快に開かれた。
「イルカさん!! 悪ふざけは止めてください!! マスコミが嗅ぎ付けたらどうするんですか!!」
「あ、ごめんね。雪菜。すぐ帰るから……」
頭を下げる明葉――を見て固まる雪菜。
「……あ、明葉? 明葉、……なの?」
「ご、ごめんね。変だよね。すぐ帰るから」
と慌てる明葉。
その体を雪菜がはぎゅっと抱きしめる。
「……すごい。ホントにすごい。格好良いよ明葉!!」
――今の明葉の格好は。
肩下十センチで切られた髪はポニーテールにしてある。
顔には薄くファンデとチークで血色を良くして、目はブルー系のアイシャドウでクールに決めている。
トップスはワイシャツ。ジャストサイズで着て手首を折り返す。
首もとはボタン二つあけてルーズな感じに黒いネクタイを巻く。
ボトムスはスキニージーンズ。もちろんシャツの裾は外出し。
靴は黒のスニーカー。装飾少な目でゴツ目のデザイン。
全体にボーイッシュというかマニッシュなコーディネートであった。
あの重苦しかった黒髪は軽やかにまとめられ、痛々しいまでに白い肌には血の色が戻っている。
恨みがましげに陰を落としていた長いまつげは上に持ち上げられ瞳を切れ長に見せている。
「……格好良い? ホントに格好良い?」
「大学生ぐらいでも通る!! ぐっと大人っぽくなってすごい格好良い!!」
「おいおい、どした~?」
「明葉ちゃん? どうしたの?」
後ろから、同じ楽屋の俳優さん達が騒ぎを聞きつけてやってきた。
「おー、明葉ちゃんイメチェン?」
「中学生には見えないねー。最近の子は発育良いんだー」
「『お姉さま』とか言われそうだな……」
「……いえ、そんな」
照れることしか出来ない明葉。
それでも。ーーそれでも。
確かに自分は踏み出したんだーーという確かな自信。
それが、明葉の背中を押す。
「格好良いよ。明葉」
その手にぎゅっと雪菜の細腕が絡みつく。
「おーおー、お似合いだなあ~!!」
冷やかされる声にも手を振って。
「じゃ、じゃあ、私はこれで……」
「な~に言ってんの!! こんな美少女帰す訳ないじゃん!!」
「アホっ!! ……でも女の子の夜道は危ないからね? もう少ししたら優樹菜ちゃんのご両親迎えに来るからそれまで待っててもらえるかな?」
「一緒に帰ろう? 明葉」
「あ、はい。分かりました」
明葉は頷く。
「じゃー、みんな反省会始まるぞー!!」
「ラジャー!!」
「イエッサー!!」
そう言って俳優さん達はどこかに行ってしまいーー後にはイルカさんと明葉だけが残された。
「お茶入れるねー」
「ありがとうございます」
一息。ついたと思った瞬間へたり込んだ。
緊張していたらしい。
「……あの、メイク落としてもらって良いですか?」
「んー? どうして?」
「もう、雪菜に見てもらったし……。流石に分不相応かなって……」
そんなことないのに~、と笑いながらそれでもイルカさんはメイク落としを持ってきてくれた。
「シートタイプだからざっとね。あとで、自分でクレンジング出来る?」
「あ、はい。大丈夫です」
元々薄化粧だ。すぐに落ちてしまう。
「まつげだけは上げとこうね。それだけでだいぶ違うから」
「あ、はい」
「うん……大丈夫。ちゃんと可愛い」
化粧を落として素顔に戻った顔を見てイルカさんはそう言ってくれるけど血色は悪いしポニーテールでつり上がった目がきつい印象を与える。
「……すごい、美少年だあ~」
「いやいや、美少年じゃないですから」
キツい印象の目。血色の悪い顔。それが逆に怜悧な印象を与える。
――安部明葉。「貞子」から「男装女子」にクラスチェンジである。
胸はさらしでぺったんこにしてあります。
ルーズに巻いたネクタイがポイント。




