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「メイクやり直そう」

「……明葉ちゃん? ……明葉ちゃんっ!!」


――イルカ姉さんの話によれば明葉はトイレの床にへたり込んだまま涙を流しながらケタケタと笑っていたという。

どう見ても尋常じゃないその姿にとりあえず手持ちのシャツを羽織らせられ席に戻らさせられた。

「……ホットティー飲める? お砂糖だけ入れておいたから」

「……はい、ありがとうございます」

そう言って、お茶を一口飲む。

ハンバーガーショップの美味くも不味くもないその紅茶はなぜだか『温かさ』だけがじんわり胸に広がった。

「……大丈夫? 具合悪い?」

「……平気です。ちょっと生理来ちゃって……。今日が初めてなんです」

「……ご両親は?」

「……家にはいません。連絡も取ってません。取る気もありません」

「保護者……いないの?」

「いません」

イルカ姉さんはそこでふうっとため息をついた。

「色々言いたいことは有るけど……まあ良いわ。初対面の私が言うことじゃないでしょう。だけど一つだけ聞かせて? そのメイク気に入らなかった?」

明葉はホットティーを一口飲む。甘い味と温かみが口に広がる。

「バケモノみたいですよね……私。折角綺麗にしてもらったのにまるで『お人形』みたい。それも呪われた出来損ないの『お人形』」

「そんなこと無いわよ!? スレンダーでスタイルも良いし。髪も肌もどこのお姫様ってぐらい綺麗だし。正直私のやった事なんてまつげ上げてチークとルージュ足しただけよ!?」

イルカは慌てて手を振った。そして、言う。

「よし、分かった」

「はい?」

「メイクやり直そう。こんなんじゃなくて、あなたがなりたいあなたになろう!」

「はい!?」

「私、バカだからさ。メイクしか出来ないけど、メイクは女の子を元気に出来ると信じてるからさ!!」

そう言うとイルカは明葉の手をぎゅっと握りしめた。

その手から明葉の中に熱が広がる。

私がなりたい私……。

お父さんの理想じゃない……、お父さんのお人形じゃない『私』!!

「行こう。あなたがどんなバケモノだって私が理想のあなたにしてあげる!!」

「え、ちょっと……」

戸惑う。

でも――流されてみたい自分もいる。

『あの女』の同類でもない、お父さんのお人形でもない――『私』

ぐいっと強引にイルカは明葉の腕を掴んで引っ張った。

「さ、行きましょう!! どこから行く!?」

「……あ、じゃあ、さらし欲しいです!!」

「分かった!!」

そうして――。

お買い物スタートとなった。


ノーブラ状態は流石にストレスだったらしい。

さらしを入手した明葉は早速胸元に巻き付けた。

「ようやっと落ち着きました……」

七月一日。日曜日。午後四時。

新宿中を回って買い集めたアイテムは五点。

さらしと、トップスとボトムス。靴と小物。

シンプル・イズ・ベストだ。

「どういった感じにします~?」

――ここはイルカ行きつけのヘアサロン。

明葉は決意を込めた目で鏡の中の自分をみる。

白くて黒いバケモノの姿。

――それと今日、決別する。

「前髪はシャギーに。後ろは肩下十センチぐらいでばっさりいって軽くしてください!!」

「……一応確認しておきますけど、良いんですか?」

「良いです」

卒業するのだ。ただ待ってるだけの『子供』から。

今日、明葉は少しだけ大人になる――!!

「了解しました~」

そんな軽い返事とともに――

明葉の長く重苦しい髪にじょきんと鋏が入れられた。


「……終わりました」

「はーい。パチパチ。――よし、着替えスペース借りるね」

「了解しました~」

明葉は買ってきた五点セットをもって着替えスペースに飛び込む。

「着替え終わったらさあ、雪菜のとこ行こう」

「雪菜のとこですか?」

「そう、劇場。雪菜と友達なんでしょう? 見せてあげよう。生まれ変わったあなたを」

「……知ってるんですか。雪菜と私のこと」

「有名。雪菜も言ってた『一生の親友』って」

「……着替え、終わりました」

「はい、じゃあ、メイク行くよ。希望は?」

明葉は決意を込めて言う。

「つけまはそんなに付けないで、アイラインは極細で、シャドウはお任せでお願いします」

「――オーケー」

イルカさんはにやりと笑った。


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