「はは、ははは……」
「トップスとボトムは選んであるから」
と、渡されたのは薄いシフォンのミントグリーンのキャミソール。
上から段々にシフォンがフリルのようについている。
それともう一つデニム地のホットパンツ。脚が丸ごと見えてしまう。
「これ着るんですか!?」
「ああ~。これならブラなしでも良いかも。脚綺麗だし」
「靴はこれね」
と渡されたのはピンクのサンダル。ヒールは低めだがそれでも五センチはある。足首のところでストラップがクロスしていてつま先部分にラインストーンがあしらわれている。
「はい、着替えて。町にでるわよ!!」
「はい!?」
「はいはい。着替える着替える」
斑鳩姉さんの有無を言わさない押し込みにより明葉は更衣室に閉じこめられた。
七月一日。午後二時。新宿。
「じゃ、私成田行かないといけないから」
「お急ぎください」
そう言って仁ノ宮夫妻は帰っていってしまった。
――明葉をおいて。
どうしろと言うのだこれは!!
「あはは~。とりあえずその辺でお茶する?」
「イルカさん……斑鳩さん」
「イルカで良いわよ。とりあえずどっか入ろっか?」
「……はい」
とりあえず、手近なハンバーガーショップに入る二人。
明葉はホットティーとナゲット。
イルカさんはコーラとチーズバーガー。
「……それだけで良いの? お腹空かない?」
「……平気です」
と言った途端明葉のお腹がぐうと鳴った。
くすくすと笑うイルカさん。
「ポテト買ってくるね。ちょっと待ってて」
「あ、じゃあちょっとお手洗いに」
「じゃあ、先行って良いよ。私ここで荷物見てるし」
「……じゃあ、すいません」
お手洗いは空いていた。
明葉は下着を下ろして生理用品を取り替える。
今日一日ですっかり慣れてしまった。
最初は仁ノ宮さんが個室の中まで入ってきてやり方を教えてくれたのだ。
使用済み生理用品を汚物入れに捨てて個室を出る。
血の臭いがまとわりついてくるようで自然足を速める。
洗面所――鏡の中に映るのは重苦しい黒い髪の少女だ。
メイクが。服が。軽やかであればあるほど――艶やかな黒髪が重苦しく感じられる。
――呪いのように。
「はは、はははは……」
乾いた笑い声が唇から漏れる。滑稽だった。無様だった。醜かった。
まるで出来損ないの『お人形』みたい。
誰からも愛されない、必要とされない、打ち捨てられるだけのお人形。
――明葉は綺麗だな。
――祖母さん譲りの髪と肌だ。
――知ってるか? 祖母さんはお姫様だったんだぞ?
――きっとお前もお姫様みたいに綺麗になる。
お父さんの――『あの男』の言葉が次々に脳裏に甦る。
お父さんが綺麗だと言った肌――白く白く磨き上げた。お父さんの気に入るように。
お父さんが綺麗だと言った髪――黒く黒く磨き上げた。お父さんの気に入るように。
だけど――お父さんは帰ってこない。
捨てられたお人形は黒く白く磨き続ける。
それでも――お父さんは帰ってこない。
捨てられたお人形は手紙を書く。会いたい。帰ってきて。
それでも――お父さんは帰ってこない。
帰ってこないままに――お人形は『女』になってしまった。
冷たい冷たい『温もり』を知らぬままの『女』に。
『あの女』と同じ種類の『女』に。
「はは、ははは……」
乾いた笑いが口からこぼれて、明葉は床にへたり込んだ。
ああ、無理をしていたんだ。
どんなに割り切ったように見せても。
どんなに満足したように取り繕っても。
やっぱり明葉は愛されたかった。一番に愛されたかった。
叶わぬ夢と知りつつも――それでも愛されたかった。
絶対の肯定が――欲しかった。
明葉が明葉でいるだけで――肯定して欲しかった。
家族とは――そういうもののはずだから。
「……救えないよ。仁ノ宮さん」
明葉に世界なんて救えない。
明葉自身すら救えないのに他に誰が救えるだろう?
愛されたかった。
愛されたかった。
愛されたかった。
――本当に、ただそれだけ。




