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女の子が綺麗で可愛くて前向きで元気なら!!

二階。フードコート。午前十一時。

結局。

ブラとセットのショーツを買ってランジェリーショップを後にした二人は

――否。三人はフードコートにて昼食と相成った。

最早、値札を見ることを拒否した明葉は下着を前に肩を震わせて泣いていた。

恐怖がこみ上げる。絶望が押しつくす。

あの――暖かくも穏やかな子供時代はもう終わってしまったのだと。

時田さんと身を寄せ合って一緒に寝たときのことを思い出す。

――優しかった。温かかった。

そのような事はもう永遠に起きないのだと――そう、思い知らされる。


お父さん。

もう、五年も会えていない人。

一緒にいた頃はよく一緒にお風呂に入って一緒のお布団で寝たものだ。

もう、そんなことは出来ない。

出来ない。


兄様。

いつも私を抱きしめてくれた人。

世界が変わっても変わらず愛していると言ってくれた人。

撫でてくれた優しい手。

もう――会えない。


「……ああ!! もう!! なんであんたはそんな辛気くさくメソメソメソメソしてる訳!! 赤飯でも炊いてやりましょうか!!」

仁ノ宮さんがキレた。

「いつか来ることは分かってたでしょうが!!」

「……だって、もう、男の子とは友達になれない。男の人には触れない……」

「何時代の貞操観念よ!!」

ついにブチギレた仁ノ宮さんが明葉の肩を掴む。赤く光る瞳が目の前にあった。

「違うでしょう!! むしろ、全てはこれから!! 友情も愛情もこれから勝ち取って行くんでしょ!!」

「う、うう……無理です」

無理だ。そんなこと。明葉は自分が『女』として醜い事を知っている。

醜い醜い『あの女』の血が肌の下を這いずり回っている。

明葉は今日から――『あの女』と同じ生物に成り下がってしまったのだ。

「そんなことない!!」

仁ノ宮さんは叫ぶ。

「私言ったよね!? 『あなたなら世界を救える』って!! あなただけじゃない!! 女の子が綺麗で可愛くて前向きで元気なら!! 世界なんか何個だって救えるんだから!!」

仁ノ宮さんはそう言って明葉の手をひっ掴む。

「行くわよ!! 光!!」

「……どちらへ?」

「劇団小宇宙。この子に女の子の楽しみかた教え込む!!」


七月一日。日曜日。午後一時。劇団小宇宙。

主力メンバーがごそっと新宿の劇場にいってしまった劇団はどことなく閑散としている。

「姉さん~? イルカ姉さんいる~?」

その中をずんずんと歩いていく仁ノ宮さん。明葉の手首を握った手は離さない。

と、唐突に扉が開いてポニーテールの女の人が飛び出してくる

「だからあっ!! 私は斑鳩であってイルカじゃないって何回言わせんのよ!!」

「よ! 姉さん! 今日も気合い入ってるじゃん。ちょっとこの子お願いね!!」

押し出される明葉。

きりっとつり上がったアーモンド型の瞳が明葉を上から下まで舐め回す。

「……ふうん。……この子どこの子? うちの子じゃないみたいだけど……」

「うちの秘蔵っ子。可愛いでしょ」

「あ、あは、あはは……」

「……素材としてはおもしろいかもね。和で行った方が良いわねこれは……」

「そこをあえて今風に行ってほしいのよね~。道行く人が振り返るぐらいには、してほしい、かな?」

「……目指すは?」

「「逆ナンパ!!」」

斑鳩さんは明葉の腕をとってメイク室に引っ張り込む。

「任せなさい!! どっからどう見ても美少女にして上げるわ!!」

明葉は思う。

……ナンデコウナッタ?


「ファンデ……こんな薄い色滅多に使わないんだけどね。それもさらに薄付けにしないと……、って肌理細かっ!! ファンデがおもしろいように延びるわ~」

「チークですよね。問題は。血色が足りないし……」

「これも薄付けにしないとまずいわね……。付けすぎると不自然になるし……」

「アイシャドウ入れます?」

「ピンク系で華やかにしたいのよね……。ちょっと目つぶっててもらえる?」

「……嫌です」

それまで。

人形のように大人しくしていた明葉はここで初めて異を唱えた。

膝の上でぎゅっと手を握る。

「この目はお父さんが私にくれた物なんです。手を入れたくありません」

『――ごめんな』

お父さんの声が耳に甦る。

『目だけは俺に似ちまったなあ……。ホントにごめんな』

――ううん。

――そんなことないよ。明葉この目が一番好き!!

そんな自分の声も甦ってくる。

大切な、大切なお父さんとの絆だった。

変な風に手を入れられるのは絶対に嫌だった。

「うーん。じゃあ、どういう風にして欲しい?」

「……お父さんみたいに垂れ目にして欲しいです」

「……垂れ目かあ」

考え込む斑鳩さん。考え込む仁ノ宮さん。

「……垂れてはいるんだけどね」

「……まつげだけでも上げません? だいぶ雰囲気明るくなると思うんですよね」

「長いよね~。……うん、ちょっとまつげだけ上げさせてもらって良いかな?」

「……それくらいなら」

「じゃ、ちょっと熱いけど我慢して……。うん、いい感じ」

「ライン入れて良い?」

「ダメ」

「うーん。目、このままか……。悪くはないんだけど」

「涙袋入れたいですよね」

「マスカラちょっとだけ入れるね。……よし、こんなモンでしょ」

「ルージュはピンク……いやレッド?」

「レッドは冒険しすぎでしょう。ここはピンクで」

「ちょっと口角上げ気味に……グロスは控えめに……」

「出来ましたね!!」

「……出来たわね」

そう言われて明葉も鏡の中を見る。

――鏡の中にいたのは桜色の頬と唇の垂れ目の『女の子』だった。


大切な大切なたった一つの絆。

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