「ならば――なればいい」
第一幕完。
「私が行く」
仁ノ宮愛はそう言って口火を切った。
「世界が越えられるというのなら私以上の適任はいないでしょう。だから――私が行く」
「……聞いてたのか」
「私音楽家よ? 耳は良いわ」
明葉は――何も言出せないまま震えていた。
所詮明葉は仁ノ宮さんの代理をしていたに過ぎない。
大切な天才である彼女の危険な真似はさせられないから――代わりに勇者していたに過ぎないのだ。
だから。
彼女がそう言った以上――もう、明葉はお役御免だ。
「……留学はどうする。コンクールまでもう一週間しかないんだぞ!!」
「優勝すればいいのでしょう?」
仁ノ宮愛はあっさりと言った。
それが当然と言わないばかりに。
「優勝もする。留学もする。勇者もする。それで良いでしょう?」
「良い訳ねえだろ!!」
仁ノ宮さんはそれを無視したまま明葉に歩み寄る。
その手がそっと頬に触れた。
意外なほど筋肉の付いた力強い手。
「……あなたは何がしたいの」
「……え?」
「光のためじゃなく、あなたは何がしたかったの」
「……わ、私は……」
がたがたと震えながら。
ぽろぽろと涙をこぼしながら。
明葉は途切れ途切れに言う。
「……仁ノ宮さん、みたいに、なりたかった……」
憧れたのだ。真っ直ぐに。
あんな風に生きてみたいと思ったのだ。
「……わ、私だって、『何か』に、『一番』に、なってみたかった……」
特別な誰かに。
特別に思われる誰かに。
――なってみたかった。
「……ゆ、勇者に、なりたかったの……」
今やってるようなのじゃない。
誰かの希望で未来であるようなヒーロー。
本当の意味での『勇者』。
なんの力もないけど、何のとりえもないけど、それでも。
今からでも間に合うはずだって――信じたかった。
「ならば――なればいい」
仁ノ宮さんは言う。
「大丈夫。遅すぎることなんてない。あなたは――世界を救える」
真っ直ぐに。どこまでもどこまでも――真っ直ぐに。
仁ノ宮愛はそう言った。
まだまだ話は続くんですが、作者の体調等の都合もありまして、これにて第一幕完となります。
再開は十月頃。
何でもなかった少女は何かになれるのか。
優勝を誓った少女は異世界で何をなすのか。
そして――薙高と魔法鉄鋼王国の因縁。
彼女は何を選びどこに進むのか。
――ご期待ください




