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「……明葉ああああああああ! 可愛い! 可愛いぞ!」

「……それは辛かったなあ」

「いいの。もう、あんなやつ知らない……」

「…………法王が来るまでの間までですからね。それまでに立て直して下さいよ?」

公爵はやれやれと首を振る。

「我が妹は叔父上にとっても姪御であろうに……。もう少し優しくても良いのではないか?」

「あなたがそうやって甘やかしているのに、さらに、ですか? 冗談じゃありませんよ」

公爵と国王。

二人の間に火花が散る。

「……兄様だけで良いもん」

明葉、上目づかい。

そして、裾をぎゅっと握る。

「……明葉ああああああああ! 可愛い! 可愛いぞ!」

国王陛下、ご乱心であった。

もう、撫でまくる。頬擦りしまくる。

最後にはぎゅっと抱きしめてようやく体を離した。

「……明葉よ」

神妙な面持ちで国王は切り出した。

「ぶっちゃけ私は駄目な国王なのだ。国とかよりも家族の――明葉の方が大事なのだ」

国王ゲオルグ三世はそう言った。

限りない愛情を込めて。

「なにも出来ない兄だが――それでも妹を裏切るような真似はせんと誓おう」

「…………兄様は、私のこと一番好き? 私のこと一番大事? 他の家族よりも大事?」

明葉は国王の目を見ずそう言った。

そんな事は絶対にないと分かっていても――聞かずにはいられなかった。

一番になりたかった。誰かの一番に。

明葉の人生は一番になれなかった敗北の歴史だ。

「家族に順位をつけた事はないな。叔父上辺りは勝手につけてるんだろうが」

国王は明葉の目を覗き込んで優しく微笑む。

「一番も二番も三番もなくお前が大事で大好きだ。お前のためなら国も捨てよう」

きゅっと両手で明葉の顔を挟んで固定する。

青い蒼いブルートパーズのような瞳に明葉が映る。

――否。明葉より数段可愛い女の子が映る。

ダークブラウンの深みのある瞳は大きくて二重で。

明葉の目とは雲泥の差だ。

「……兄様はさ。本当の私を知らないからそんなこと言うんだよ……。わたし、なんて、こんなに綺麗でも可愛くも無いんだよ……!」

重苦しいほどに黒い髪。痛々しいまでに白い肌。

一重の三白眼は恨みがましげで。

幽鬼のような、その姿。

それを兄様は見たことない。

「――見たことはあるさ。妹のことだ。叔父上に無理を言って見せてもらった」

思わず明葉は公爵を見る。

苛立たしげな公爵はつっけんどんに言う。

「ええ、確かに見せましたね。魔法使いに盗撮させたものを伝達して。仮にも国王たるものが盗撮とは何事かと思いましたがね……」

「可愛い妹の本当の姿だ。無理もするさ」

――ぎゅうっと心臓が掴まれた気がした。

血が一気に逆流する感覚。

「…………可愛く、なかったよね」

それは自分が一番よく知っている。

そういう風に努力してきた。

だからこんな苦い苦い後悔も織り込み済みのはず――!

「――綺麗であったよ。綺麗な目であった。折れない意思と高潔な魂を感じた」

「……ホント?」

明葉の目は髪や肌と違ってほとんど手を入れていない。

お父さんとお揃いだから。寂しくても鏡を見ればお父さんがいるから。

「……自分に厳しすぎるのではないか。そう心配になるぐらい厳しい目であったよ。烈日秋霜のごとき眼差しであったよ」

「……そんなこと、ない。ちょっと目付きが悪いって言われることはあるけど……」

お父さんとお揃いの目。だけどお父さんの目は優しげに垂れて安心感を与える眼差しだ。

明葉のとげとげした恨みがましげな目付きとは違う。

「もっと自分に優しくても良いのではないか? 明葉は十分に可愛いし賢い。度胸もあるし真面目だ。もっと自分を評価してもいいと思うぞ」

「……そんなことないよ」

明葉など。

誰の一番にもなれなかった出来損ないだ。

「――時間です。陛下は御退出を。勇者様はスタンバイお願いいたします。――神聖王国法王フランシスコ様準備お願いします」

公爵の声が無機質に響いた。



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