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「マントを撫でています」

もふもふ回

六月三十日。土曜日。午後三時。魔法鉄鋼王国王宮謁見の間。

初めて兄様に会った時と同じように明葉は椅子に座っていた。

あの時と同じ優雅な猫足の椅子。

あの時とは違う金糸銀糸で縫いとられた黒のローブ。

足にはサンダル。

首には銀のペンダントと藍色真珠のネックレス。

王妹殿下になったのだなあとしみじみと思った。

お兄ちゃんが欲しかった。

いつでも明葉を思ってくれる優しいお兄ちゃんが。

それだけだったのだけど。

両肩に乗ったものは結構大きかった。

兄様が居てくれなければ――勇者を辞めていたかも知れない。

玉座の傍ら、そこに控える公爵が言う。

「北限国家国王アレキサンダー・キング様。どうぞ」

コツコツと横から誰かが歩いてくる。

王座に座ったその人は――。

「私が北限国家国王アレキサンダー・キングだ。今日はよろしく頼む」

明葉と年の変わらない――少年だった。



「アレキサンダー・キングだ。アレクと呼んで構わない」

「はい。ありがとうございます。魔法鉄鋼王国王妹安部明葉です」

アレクと名乗った少年はマントを着ていた。

モコモコのファーで裏地が出来たいかにも暖かそうなマント。

表面はシルバーの滑らかな毛皮だ。


――モフりたい。


会話とか放棄してもふもふしたい。

そんな煩悩に近い欲求が明葉の脳内を駆け巡るも、ぐっと堪えた。

初対面の方に対して流石にそれはどうかと思ったのだ。

最大限空気を読んだ形である。

「勇者様……」

アレクはゆっくりと玉座から立ち上がり、たんたんたんと段差を降りて明葉の方に向かってくる。

アイスブルーの瞳が真っ直ぐに明葉を見ていて、銀の髪がそれを彩る。

銀の髪の少年は悠然と明葉の前に膝をつき――ひれ伏した。

「勇者様。伏してお願い申し上げます――どうか我が国の勇者としてお越しください」

滑らかな銀色の毛皮が明葉の目の前で「撫でてください」と言わんばかりの輝きを放つ。

誘われてるんじゃないかと思うようなシチュエーションである。

まさか、試されているのか。勇者としての忍耐力を。

ならば大人しく白旗を上げよう。

明葉は手を伸ばしてマントに触れた。

撫でる。撫でる。撫でる。

至福。まさに王者の撫で心地である。

もふもふというよりすべすべに近いがこれはこれで撫でがいがある。

堪能させて貰おう。

明葉は決意と共に撫でまくってるとマントの下から困惑したような声がした。

「……ディルク殿。勇者様は何をしていらっしゃるのだろうか」

「マントを撫でています」

「……それは何か意味のある行為なのだろうか」

「いや、単に撫でたいから撫でてるだけですね」

「……私が土下座までした嘆願は勇者様に届いているのだろうか」

「届いてませんね。もう、今日何しに来たかも忘れてるレベルでマントに夢中です」

「……そうか」

突如マントが動いた。

正確にはアレクが立ち上がった。

「みゃうっ!」

突然の事態に変な声を出す明葉。

アレクはばさりとマントを外し――すっと明葉に差し出した。

「どうかこれをお納め頂きたい。勇者様」

「は、はい? こんなすごいものを良いんですか?」

流石に受けとれないと首をふる明葉の膝にアレクはマントを被せた。

「膝掛けと思って貰って構わない。その代わり少しでいい。私の話を聞いて貰えないだろうか」

そう言って。

アレクは深々と頭を下げた。

「ええっと、まあ、良いですけど」

この時点で明葉の頭の中にようやっと何処かに旅立っていった今日の用件が帰ってくる。

――そうだ。今日は。

「非礼を承知で申し上げる。どうか我が国の勇者になってもらえないだろうか。来てもらえるなら――どんな無茶でも叶えよう」

すっと流れるように明葉の前に跪き少年王は勇者の手を取って甲に口付けた。

「みゃんっ!?」

「――お望みなら」

銀色の睫毛に縁取られたアイスブルーの瞳が瞬く。

色素の薄い肌は染み一つ無く。

綺麗とか格好いいとかそういう俗な言葉は似合わない。

強いて言うなら――気品。

敢えて言うなら――高貴。

わざわざ言葉にするまでもない王者としての風格がそこにはあった。

薔薇色の唇が続きを紡ぐ。

「私の妻に――王妃にしても構わない」

「はい!?」

――安部明葉人生初のプロポーズであった。


言ったことはあっても言われたことはなかった明葉でした。


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