「……似てるだろう?」
「上出来だ。誉めてやるよ」
「ありがとうございます」
六月二十七日水曜日。午後八時。
御法川准教授との会食は無事に終了した。
明葉は六月三十日土曜日に『外交会』系列の病院で朝から検査を受け、そこで召喚となることになった。
明葉の推測が正しければそこで魔法の不思議な性質が明らかになるはずである。
おそらくそれが『外交会』が勇者界と魔法界は同一次元内にあると判断した理由なのだろう。
「助手席には乗せてくれないんですね」
「俺の隣は愛の指定席なんでね」
最早お馴染みとなった白いバンの後部座席に明葉はいた。
スモークガラスに囲まれた外からは見えない席。
「……あんなカルト組織に関わりたくはなかったんだが」
「大真面目な大人って厄介ですねえ……。どこにいても」
「子供を利用しようとする大人なんて大概ロクな奴じゃねえぞ――俺も含めて」
白いバンは夜道を走る。
光さんのグレイのレンズが街灯を反射して光った。
「――お前、あの仮説って自信あるんだろうな?」
「もう何回も向こういってますからね。それなりの確信はありますよ」
「しかし、経験則に過ぎない訳だろ?」
「確かに私はあまり賢くないですが――馬鹿ってほど馬鹿じゃないつもりですよ」
口を尖らせて明葉が言うと光さんは皮肉げに笑った。
「こんな男の妄言真に受ける時点で大馬鹿野郎だよ」
「野郎じゃありませーん。女子でーす」
「はいはい……。とにかく余計な注意は引くなよ。できる限り大人しくしてろ」
「分かってますよ。……向こうには外交会のこと言います?」
光さんは押し黙った。
考え込んでいるのだろう。
車内にエンジン音だけが低く流れる。
「……言っとけ」
長い沈黙の後、光さんは言った。
「……おそらく、『外交会』のことは向こうでも持て余しているはずだ。手を組んでどうこうってことはないと思う。そうでなければ向こうは『外交会』推薦の勇者だらけになってるはず……。そうでないとするならそこまで関係は友好的なもんじゃねえはずだ」
珍しく自身に言い聞かせるような口調の光さん。
それでも明葉は信じるだけだ。
「分かりました」
「ヤバイと思ったらすぐに逃げ出せ。できる限りのことはする」
――愛の安全が最優先だが。
言葉にしなかった思いに胸が潰れそうになる。
――しっかりしろ。安部明葉。
潰れた胸の内でそう呟いて、明葉は毅然と前を向く。
決めたじゃないか。
この人の役に立つんだって。
「土曜日は俺が迎えにいく。これでも読んで大人しくして待ってろ」
「――これは?」
投げ渡されたのは興信所の封筒。A4サイズの紙がぎっしりと詰まっている。
「時田空の調査報告書だ。結構面白い経歴してるぞ。小二の八月――丸一月に渡って誘拐されてる」
「誘拐、ですか」
営利目的――ではない可能性がある。時田空のあの容姿なら。
ぞくりと背筋が逆立つ。腕の中の封筒が一気に重く感じられた。
「――俺も驚いたよ。犯人の女――お前によく似てる」
「……え?」
「写真入ってるぞ。見てみろ」
言われて。
封筒の中を探る。
目が合った。
死んだ魚のような目と。
「――ッ!!」
「……似てるだろう?」
重苦しい髪は重苦しいだけで明葉のように艶やかではない。
痛々しいまでに白い肌は痛々しいだけで明葉のように肌理細やかではない。
だけどそれゆえに。
――ぞっとするほどその女はよく似ていた。
他人のそら似。しかしそれゆえに――。




