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「ふうん………そうなんですか………」

六月二十五日。月曜日。午後八時。安部明葉宅。

「あんた、ホントに髪と肌には気を使ってんのねー」

「黒髪白肌は美人の条件ですからね」

明葉がズラリと並べた化粧品の前に感嘆の声を漏らす仁ノ宮愛。

「おじいちゃんが買ってくれるんですよ。自社製品ならいくらでも」

「……あんたの祖父って……、ああ、なるほどね。罪滅ぼしのつもりなのかしらねえ」

「口止め料のつもりなんじゃないですかねー」

さて、なんで仁ノ宮さんが我が家にいるのかと言うと答えは簡単で。

喧嘩したのだ。光さんと。

光さんが私に勇者を辞めるよう迫った事が気に入らなかったらしい。

『自分の都合で命かけさせた女がちょっと傷ついたぐらいで慌てんじゃないわよ!! あの子の覚悟をなんだと思ってるのよ!!』

だそうで。

正直、仁ノ宮さんがキレるとは思わなかったのだが、

仁ノ宮さん曰く、『あんたのことはライバルだと思ってる』らしい。

「髪にも肌にも美容液かあ……私よりお金かかってるんじゃないの?」

「そりゃ、そんだけ素材が良かったら安上がりでしょうよ」

素材が良くない明葉は地道に努力するしかない。明葉は美白パックを剥がすと美容液パックを張り付けた。

「うーん。問題は目よね。目がもうちょっと大きくて黒目がちなら美人だと思うのよ」

そう言ってアイプチとつけまつげとデカ目カラコンを取り出す仁ノ宮さん。

「試す?」

「いえ、結構です」

仁ノ宮さんの前でアイプチとか何の罰ゲームだ。

と、そこで。

明葉のスマホが鳴った。

発信者は時田空。

「もしもし?」

『もしもし。あー悪いなお役に立てなくて』

「ううん。そんなことないよ。それにそっちは仁ノ宮さんがどうにかしてくれたから大丈夫」

安心させるようにそう言ってスマホをスピーカーモードにする。

空いた両手で髪に美容液をすりこんでいく。

もっと黒く。もっと重苦しく。

そう、願いながらすりこんでいく。

『どうにか……ってどうなったんだ?』

「ええと、ですね……」

すりこみながら仁ノ宮さんに目で確認する。

仁ノ宮さんは軽く頷いた。

「えっと……」

明葉は事情を説明しながら電子レンジから蒸しタオルを取り出した。

それでクルリと髪を包んで美容液が浸透するのを待つのである。

『……明葉ちゃんの意思は無視な訳?』

「ううん。そんなことないよ。決めるのは私だし」

『……明葉ちゃんはさあ、魔法鉄鋼王国が良いの? それとも別の国でも良いの?』

「……うーん。別にどっちでも良いですけど……、やっぱり働き慣れた所が良いかな」

勇者を国では縛れない。

結局の所勇者は勇者界でしか生きられないからだ。

どんな国家も勇者に忠誠を誓わせる事は出来ない。

裏切る時はあっさり裏切る。

『……俺が魔法鉄鋼王国行こうか?』

「農業連合嫌なんですか?」

『嫌だね。特にあの女王が嫌だ。若づくりする女は嫌いだよ』

ぴしりと。

空間に亀裂の入った音がした。

「へえ……そう……」

「ふうん………そうなんですか………」

リビングが瞬く間に凍てつきスマホ越しに空まで凍りつかせる。

「…………あの? 別に明葉ちゃんのこと言った訳じゃないからね? 明葉ちゃんならそんなことしなくても十分可愛いし……」

「今パック中なんで話しかけないでくれます?」

「私もドライヤー使うんで話聞こえなーい」

冷たい。

氷よりもなお冷たき言霊が時田空を貫いていく。

「い、いや! マジ最悪なんだよあの女! 自分の旦那が死んだのを良いことに美少年侍らしてさ!」

「――それって、男性だったら普通の事ですよね?」

明葉の白目がちの瞳は人を見放すときに最大の効果を発揮する。

その見るもの全てを恐怖させる眼差しを見なくて済んだ幸運に時田空は感謝しなくてはならないだろう。

「じゃ、サヨナラ」

「もう、会うこともないと思うけどね~」

「あ、え、う、ちょ、ちょっと待って……」

ピ。

通話は無情にも切られた。


明葉、髪と肌は超のつく若作りです。赤ちゃん肌。

十四歳は十四歳なりに老化をきにしてるんです。

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