「あなた神聖王国に来ない?」
女子会開始から丁度四十分後。
窓が、蹴破れる。
白ローブが唱和する。
「拘束する!」
江藤蓮に向かって。
侵入者に飛び掛かっていた蓮がそれで固まって。
なすすべなく床に激突して。
仁ノ宮愛と安部明葉は黒い影に捕まって。
破られた窓から黒い影が出ていって。
全てが一瞬だった。
「…………」
安部明葉は目を覚ました。
知らない天井であった。
今までの人生の中で見たことの無い天井の工法であった。
床板のように天井に板を並べて拭いてある。
いかにも質の悪そうな灰色の板である。
それがいかにも杜撰に打ち付けてある。
見れば、天井だけでなく床も壁も同じ材質同じ工法である。
窓も無いのに板の隙間から明かりが漏れてくる。
家や部屋というより箱に近い。
長持ちさせる気が微塵も感じられない即席の造りだ。
段ボールハウスのようなものだろうと当たりをつけた。
それでも。
こんな粗末な箱でも。
目の前に立つ仁ノ宮愛のせいでとびきりおしゃれで前衛的なステージか何かのように見えてしまうわけなのだが。
明葉はゆっくりと身を起こす。
倒れたままでは失礼だとか。
相手を呑まれないようにとか。
状況を確認しようだとか。
この女に限ってそんな高尚なことは考えてない。
ローアングルだとどうしても見えてしまうのだ。
下着が。
非常に扇情的であった。
同性とはいえちょっと明葉には刺激が強すぎた。
ゴムのない魔法界においていかにしてこの形状を実現せしめたのか。
神聖王国の服飾技術恐るべしである。
――無論。
明葉にもどうやら自分が拐われたらしいということはわかっている。
むしろここで「下着、見えてますよ」とか言わなかった辺り、明葉的には最大限空気を読んでいた。
一歩間違えば、「凄い下着ですね」とか更に取り返しのつかないことを言い出してもおかしくはなかったのである。
無言で起き上がった辺り十分に合格点だった。
「おはよう。ねぼすけさん」
クスリと仁ノ宮愛は笑った。
こういうちょっとした動作がいちいち妖艶なのは流石にプロであった。
恐ろしき女子力であった。
「おはようございます」
ペコリと明葉は頭を下げた。
実際時刻はそこまで早くはない。
お腹のすき具合からして女子会開始から一時間といったところだろう。
と、そこで気づく。
明葉は別に手足を拘束されているわけではなかった。
拐われる際も落下のショックで気を失ったものの特に手荒にされた覚えもなく。
目の前の彼女をみればちょっと手荒に扱われれば破けてしまいそうなキャミソールドレスには傷ひとつなく。
拐かされた――にしては妙な状況であった。
しかし。
「まあ、いいか」
だからと言ってここで空気を読んで仁ノ宮愛を問い詰めるという機能は安部明葉には搭載されていない。
Intel入ってない、である。
まあいい。この壁を壊せば、なんにせよすべて終わりだ。
くるりと壁の方に向き直って蹴り飛ばした。
サンダルで。
カーン。
非常に小気味良い音がしてサンダルが壁に激突した。
スカッ。
むき出しの右足が目測を誤って空振りした。
仁ノ宮愛。無言である。
安部明葉。無言である。
暫し沈黙が箱の中を支配した。
「……ところで私は何故こんな所にいるのでしょう」
くるりと仁ノ宮愛の方に向き直って安部明葉は言った。
流石にその沈黙には若干の気まずさを感じたのであった。
「聞いてた通りに面白い子ね」
「これはあなたの仕業ですか?」
「説明してあげるからまずサンダルはきなさい。怪我するわよ」
正論だった。
大人しくサンダルを拾ってはく安部明葉である。
地味に右足が痛かったのである。
――無論、その際にサンダルがぶつかった跡もチェックしておく。
灰色の板は凹んで一部は割れている。
全力でやれば脱出は不可能ではない。
切り札はあるのだ。
仁ノ宮愛は言う。
何でもないことのように。
「あなた神聖王国に来ない?」
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