第3話《行軍》
夜が明けた。
昨日の戦いが嘘の様に晴れ渡る空。
ガイル将軍の軍と傭兵団はいまアルンの本拠地に向かい行軍している。
「あちい…あちい…」
さっきからあちいあちいと壊れたラジオみたいにリピートしているロックを無視して歩くカイル。
すると後ろから声が響く。
「おう!!カイル昨日は頑張ったのう」
とガイル将軍が高らかに笑いながら近付いてきた。
中将と言う位の高い人物が馬を使わずに歩くとは珍しい光景だ。
「将軍…なんで馬にのらないのですか?」
理由はわかっているが一応聞く。
「ガハハハハ!!!兵の立場にならないと分からない事があるのだよ!」
ガイル将軍は兵と共に駆け、寝、食事も兵と同じだ。
だからこそ兵からの信頼も厚い。
「しかし…ロックは大丈夫か?」
ガイルがカイルに問う。
正直今のロックは酷い顔をしてうなだれながら歩いている。
まさにゾンビのようだ。
聖水をかけたら溶けてしまいそうな感じだ。
「大丈夫ですよ…多分…」
「ならいいんだが…」
「将軍どうかされましたか?」
珍しく表情を曇らせたガイルにカイルは問う。
「…ここだけの話だが…最近アルタイムの上層部の動きが怪しいのだ」
「アルタイムが?」
アルタイムはガイル将軍が所属している国。
魔法国と呼ばれる程、魔法物に恵まれた国。
ガイルに雇われている傭兵団に所属しているカイルは間接的にアルタイム軍に所属しているという事になっている。
「上層部が何やら大量の資源を使い、大陸1つ吹き飛ぶ程の魔導兵器を作ったらしいのだ。」
「大陸1つ…!」
「ワシは早く争いがなくなれば良いと思い戦場を駆け回ってきた。」
やはりガイルはこういう人物だと痛感したカイルだった。
「しかし今回の魔導兵器を使いアルタイム軍上層部はガーデンズ、ファクトリー、アカツキ国を滅ぼすつもりらしい。」
「大陸1つ吹き飛ぶ程の国に向けて使ったら…何万…何億もの罪の無い人々が死ぬことになるのう…」
ガイルの拳が震える。
「もしも上層部がそう考えているのなら…ワシは…ワシは…」
ガイルの顔がけわしくなる。
「将軍。」
カイルがガイル将軍の言葉を遮る。
「自分は将軍に付いていきますよ」
「俺もだぜオッサン!!!!」
ゾンビになっていた筈のロックが話を聞いていたのか急に口を挟む。
「お前ら…」
本当ならこのまま3人で抱き合う雰囲気なのだが、ガイル将軍の馬鹿力を考えて止めておく。
「あんたら…何してるのさ?」
「おわっ!マヒロ姉さん!」
ロックは昔のフルボッコにされた事をトラウマにしているのか、マヒロ姉さんが現れると決まって驚く。
「おう!マヒロか!どうしたんだ?」
「将軍…昼だし休憩にしないかい?将軍の兵と傭兵団の馬鹿共、昨日の疲れがまだ残ってるみたいなんだよ…」
マヒロ姉さんが母親の様な顔をして言う。
「うむ、確かに昨日は苦しかったからのう…よし!休憩を取るか!」
ガイル将軍は部隊長らしき兵を呼び休憩を取る旨を伝える。
しばらくすると兵士や傭兵達がキャンプをし始める。
「ようやく休める…」
ロックは草むらに倒れ込む。
「お前相変わらず暑さに弱いな」
カイルはそう言いながら本を懐から取り出し、読み始める。
「何を読んでいるんだよカイル」
「魔法書だよ」
「そういえばカイルあんた魔法苦手だったわね。」
「うおっ!!マヒロ姉さん!!」
マヒロが水筒を持って現れる。
ロックはお決まりの様に驚くがマヒロは気にしない。
「ほら、あんた達の分だよ」
持っていた水筒をロックとカイルに投げるマヒロ。
「ありがとうございますマヒロさん」
カイルはお礼を言うと水筒の中を口にする。
乾いた喉に染み渡るようだ。
「カイルあんた剣術は上手いんだけど魔法がさっぱりだからねえ…」
マヒロがカイルから魔法書をつまみ上げる。
「そうそう!魔法が使えないって言うと、アルンの本拠地にいるロスト中将も使えないらしいぜ」
ロックが思い出した様に言う。
ロスト中将。
ガイル中将と並ぶ猛将。
噂なら聞いた事がある。
まだ若くして中将の座に就いた人物。知略も去ることながら武力のみで中将にまで登り積めた。
また、いつも漆黒の様な鎧に身を包み巨大な大剣を携える姿から『漆黒の死神』と敵国からは恐れられている人物。
「ロスト中将ねえ…」
マヒロが懐かしそうに呟く。
「マヒロさんどうしたんですか?」
「なんでもないさ!
ところでカイル、さっきガイル将軍があんたを呼んでいたよ!」
「えー!俺は俺はー?」
ロックが不満そうに呟く。
「あんたはアタシと一緒に来るんだよロック!」
「ええええええええええええええええ!!!!!!」
ロックが叫ぶ。
「よしロック!いくよ!」
マヒロはロックの襟元を掴み、引きずっていく。
「めんどくせえええええ!!!」
と口癖になりつつあるセリフを残して、連れ去られて行った。
「おうカイル!!ここにいたか!」
振り向くとガイル将軍らしき人影が歩いてくる。
「将軍!何か用があるんですよね?」
「…ああ…そのとうりだが…」
ガイル将軍は周りを気にする。
「ここじゃ話にくい。
場所を変えるぞ。」
ガイルはそう言うと向きを変え歩きだす。
カイルもガイルの後ろをついていく。
少し歩いた所にテントがあり、ガイル中将の兵が入り口に立っていた。
「中将、どうぞこちらへ」
「すまんな」
とガイル中将は一言兵に言うと、
カイルを手招きしながらテントの中に消えた。
カイルは立っている兵に一礼して、テントの中に入る。
テントの中は縦長のテーブルがあるだけでシンプルだった。
「将軍、それで話とは…?」
「うむ…
カイル、さっき話た魔導兵器の事は覚えているな…?」
「はい…」
「今回ワシらの軍がその魔導兵器をアルンの本拠地からオリオンの砦に運ぶ任務を命令されたんだ。」
カイルはガイルが何を考えているのかわからない。
「将軍…それは…まさか…」
ガイルはニヤリと笑う。
「アルタイム国に喧嘩を売るぞ」