第20話【十三武神】
「カイルー……心配したんだから…」
ルナがこちらに駆け寄ってきて涙目のまま呟く。
「ごめんな。
つか船室に居たんじゃないのか?」
「この娘ったら、カイルの所に行くって言って走り出すんだもの。
驚いちゃったよ。」
不意に現れたマヒロさんがルナの頭を撫でながら言う。
ルナは顔を赤くしてうつ向く。
「ガハハハハ!
どうにか勝った様だのう、カイル!」
ガイル将軍が笑いながらやって来た。
「…自分は完璧に負けましたよ将軍。
あの船長、只の海賊じゃあないですよ。」
人間としての器もただ者ではない。
それに、髪飾りについて何か知っている様子だった。
出来ればまた会って話してみたいものだ。
「まあ結果オーライだね。
そろそろまた出発しようか。」
ジンがいつの間にか側に立っていた。
船が再びゆっくりと進み出す。
「それじゃまた私とガイルは釣りでもしてくるよ。」
ダイソンさんは麦わら帽子を被りガイル将軍と一緒に船の後ろの方に歩いて行った。
単なる釣り好きのオッサン二人だ。
「あの人釣りが好きなんだなあ…。」
サラさんが呟く。
「まあ良いじゃないすかサラさん。あの二人古い仲らしいですし。」
ロックが言う。
確かにあの二人は昔からの戦友らしい。
「とりあえず、各々好きな風に時間を潰そうか…。」
そうジンは言うと派手に倒れた。
船酔いの再発だろう。
「ジン大将!?
ロック君、ジン大将を運ぶの手伝って!!」
サラさんが慌てて言う。
「了解しましたよっと。」
ロックはジンさんを担ぐとこちらに手を振り、サラさんと一緒に船室の中に消えた。
「………本当相変わらず船には弱いな…。」
ロストが苦笑しながら呟く。
「船酔いって大変そうだね…。」
ルナが呟く。
「大変だよな実際…。」
かなりキツイに違いない。
「まあジンなら大丈夫さ。
なかなかしぶといからね。」
マヒロさんが呟く。
「そうだマヒロさん!
色々と教えて欲しい事があるんだけど、あっちに行こうよー。」
ルナがマヒロさんの腕を引っ張って船の前の方に歩いて行った。
本当、仲が良い。
「本当、仲が良いよなあ…。」
ロストがルナとマヒロさんを見ながら言う。
「そうですねえ……。
ところでロストさん。
聞きたいことがあるんですけど…。」
「ん?何だよ。」
前々から思っていた疑問をぶつける。
「『十三武神』についてなんですけど……。」
「ああ、『十三武神』についてか。
知らないのなら詳しく説明してやるよ。」
「すいません。お願いします。」
気になっていた事だったので、説明をお願いした。
「とりあえず『十三武神』って言うくらいだから、十三人の将軍が数えられているんだよ。
アルタイムに三人、ファクトリーに三人、ガーデンズに三人、アカツキに三人。
各々の国に三人ずつ所属しているんだ。」
四ヵ国に三人ずつ………確実に計算が合わない。
三×四=十二明らかに一人足りない。
「あー…言いたい事はわかる。
後の一人は傭兵なんだ。
『十三武神』の中でも最強の武力を誇る傭兵。
名前は知らないが確か…『天下無双』って言う派手な異名がついてたなあ…。」
『天下無双』…噂なら聞いた事がある。
とある山賊とファクトリーが戦をした。
数は天地の差でファクトリーが圧倒的だった。
だがたまたま『天下無双』が山賊に雇われていたらしい。
『天下無双』単騎でファクトリーの大軍を突破し、ファクトリーの将軍を討ち取ったと聞いた。
討ち取った後も圧倒的な『天下無双』の武力で戦場はファクトリー軍の兵の血で、真っ赤に染まったらしい。
「ほかの『十三武神』について知っていますか?」
『天下無双』の話を聞いて、興味が湧いてきた。
「あー…すまんがあまり知らないんだ。
今の所知ってるのは、『究極の鉄壁』、『千里眼』、『天下無双』、後は『暁の虎』だな。」
『暁の虎』は初めて聞いた。
『究極の鉄壁』はアルタイムのアルベルト大将。
『千里眼』はアカツキのジンさんの事だ。
「『暁の虎』ってのはなんですか?」
「『暁の虎』はなアカツキ軍の中将だ。
知り合いなんだが……まあお前も会えば異名の由来がわかるさ。」
ロストはニヤリと笑う。
用は見てからの楽しみって事だろう。
「教えて下さりありがとうございました。」
一礼する。
「すまんな。
あまり詳しくなくてさ。」
「そんな事はないですよ。
ところでロストさん、後どのくらいで目的地に着きますかね?」
「うーん……後どのくらいだろうな…。
とりあえず、港町ログタウンに着くのは夜になるだろうな。」
「って事はログタウンで一泊するって事ですか?。」
「ああ。
とりあえずはそうなるな。」
今はまだ昼過ぎなので船旅はかなり長くなりそうだ。
「久々にのんびり出来そうですね。」
「最近は色々起こり過ぎたからな。」
アルタイムを裏切り、ルナを助け、ジンさんと出会い、今はアカツキを目指している。
激動の日々だ。
「まあ、争いが絶えないのは変わりないですよね。」
「四ヵ国が資源を奪い合う戦争……ラインの民達は迷惑だろうな。」
「ええ……。」
難儀な話だ。
各々の国が国の為に資源を奪い合う。
ラインの民はただ単に巻き込まれ命を落とす。
「暗い話は止めようか。
考えるだけで頭が痛くなる。
まあ明るい話題も無いけどな。」
ロストは苦笑しながら呟く。
「そうですねえ…。」
「………うっ………俺もあの馬鹿息子みたいに酔ってきた………。
船室で休んでくる………。」
ロストはそう言い残し船室に消えた。
ロストとしばらく話し込んだのでけっこう時間が経っていた。
日は少し傾いている。
視界の端ではマヒロさんとルナがダイソンさんとガイル将軍と一緒に釣りをしている。
風が吹く。
天気は快晴。
順調に船はログタウンを目指して進む。