第１９話【海賊船】
「ジンほら起きろ!!
海賊が来やがったぞ!」
ロストが倒れているジンの頭をはたく。
するとジンは飛び起きてロストから双眼鏡を奪い、海を凝視し始める。
「それで、海賊はどこかのう。」
ガイル将軍が騒ぎを聞き付けダイソンさんと一緒にやって来た。
「とりあえず今はちょっと離れた所に居るんですが…。
そろそろ肉眼でも見えますよ。」
ジンが双眼鏡を覗きながら呟く。
確かに海賊船が見えてきた。
「ほー……あれが海賊船っすか。」
いつの間にかロックとサラさんも来ていた。
確かに海賊船らしき船が見える。
帆にはドクロマークがある。
まさに海賊船って所だろう。
「うーんこのまま向こうが気付かずに行ってくれれば、一番良いんだけどね…」
ダイソンさんが服の袖を捲りながら呟く。
「ええ、確かにそうですよね。」
カイルはダイソンさんに言う。
危険な事は少しでも少ない方が良い。
「うーん…一応、いつでも応戦出来る様に砲台を使う準備をしておいてくれ 船長。」
ジンさんが船長に指示をする。
甲板が慌ただしくなる。
船員が駆け回っている。
すると急に船から低い音が響き始める。
「これが軍船アカツキの本当の姿だよ!!」
ジンさんが自慢気に言う。
確かに船の横側からは砲身が飛び出しており、甲板にもいくつかの砲台が準備されていた。
「流石ってところだな……。」
ロストが感心したように呟く。
「まあアカツキ船舐めてもらっちゃ困るよ。
……よしとりあえずサラ君、僕の弓を用意してくれないか?」
「ジン大将、弓なら用意してありますよ。」
サラさんが巨大な機械弓をジンさんに渡す。
「…………君ルミネ少将とそっくりだね…………。」
ジンさんはなんとも言えない表情で呟く。
「そんな事は無いですよ。
…ね?ロック君。」
サラさんが笑いながら言う。
八重歯が目立つ。
ロックは顔を赤らめながら首を縦に振っている。
「っ……!
奴らこっちに気付いた…。
船長!!舵を思い切り左へ!!
撃ってくるぞ!!」
双眼鏡を覗いたままロストが叫ぶ。
視界の端では船長が舵を操っている。
海賊船から爆音が響く。
そしてアカツキ船の右手に砲弾が着弾した。
水しぶきが高く高く上がった。
船が激しく揺れる。
「うわわわわ……!!」
ロックが情けない声を漏らす。
「こちらも撃ち返すか。
一、二、三、四番砲………撃て!!!」
ジンさんが叫ぶ。
アカツキ船の横側から爆音と煙が上がる。
海賊船から少し逸れた所に着弾した。
海賊船も撃ち返してくる。
激しい撃ち合いだが、お互い船に損傷は無いようだ。
「ちょっと……海賊船がこっち突っ込んで来てますよ!!!」
カイルは言う。
明らかに海賊船は船首をこちらに向け突っ込んで来ている。
「こっちの船に横付けして乗り込んで来るって戦法かのう…。」
ガイル将軍が斧を担ぎながら呟く。
「本当めんどくせえ…。」
ロックも槍を持つ。
そしてアカツキ船全体に衝撃が走る。
アカツキ船の横に海賊船が横付けしてきて、橋を架けたのだ。
「いかにも海賊面って感じの奴らだな…。」
ロストが新しい大剣を構えながら呟く。
歓声を上げながら次々と海賊が橋を渡って攻めこんできた。
カイルはロックとサラさんと一緒に敵に対応する。
サラさんは槍を武器として振るっている。
視界の端では船室への入口の前で、仁王立ちしながら斧を振り回すガイル将軍が見える。
ジンさんは弓で的確に矢を射っていく。
ダイソンさんは素手に魔法を宿しながら敵を海に叩き落としていた。
カイル自身も刀で敵の攻撃を時には防ぎ、避け、次々と命を奪っていく。
「ちょっ……こいつら!!」
ロックが敵を突きながら呟く。
「どうしたんだよ!!!まさかもうダウンか!?」
「これしきでダウンするか!
こいつら…なんかおかしい…。」
「おかしい………?」
……確かに……何か違和感がある。
海賊達は士気が高い。
ただ…何かに…脅えているようにも見える。
さっきから何人も海賊を斬って来たが、その斬った海賊の仲間の海賊は顔色一つ変えずに攻撃をしてくる。
いくら海賊とはいえ仲間が目の前で斬られて焦らない奴などいない。
彼等は何かにつき動かされている。
「気付いたかよカイル…。
嫌な予感しかしないよ…。」
ロックが向かってきた海賊を蹴り飛ばしながら呟く。
「ああ…気を付けようか…。」
視界の端ではロストさんが大剣を振るい、敵を吹き飛ばしている。
今の戦況は、数では確実に海賊の方に分がある。
それに海賊は士気が高い。
だがガイル将軍達が次々と海賊を倒していっているので戦局が引っくり返るのも時間の問題だろう。
その時だった。
「…あー……てめえら…なに苦戦してやがるんだああああああ!!!!!」
海賊船から獣の雄叫びの如く怒鳴り声が響く。
海賊達はピタリと動きを止める。
海賊達の表情は恐怖の色に染まっていた。
「……どうしたのかしら…?」
サラさんが手を止め呟く。
流石にカイル達も攻撃を止める。
すると一人の海賊が海賊船に駆けていく。
「船長………だってあいつら、やけに強いんですぜ…。」
海賊は脅えながらその姿が見えない船長に言う。
「…情けねえなあオイ……お前らそれでも海賊か!?」
海賊船の船長が怒鳴る。
「ひい!!………すいやせん……でも…………。」
「あああ!!
もういい!俺が行く!!!!」
そう海賊船の船長が怒鳴り、そして姿を現した。
派手な帽子を被り、正に海賊の当主みたいな格好だ。
髪の色は灰色。
「ったく……!!!
情けねえ部下どもが世話になった様だな!!!!」
「君が海賊の船長か?」
「あー…そうだ。
一応船長だ!」
「なあ船長さん、ここはお互い退かないかい?
こっちは急いでるんだが。」
ジンさんが提案する。
「はあ!?
何つまらねえ事を…………あ!!!
良い事を思い付いた!!」
「良い事?」
カイルは思わず聞いてしまった。
「良い事だ緑髪の兄ちゃんよ!!
簡単な事だ!
俺と一騎討ちしてお前らが勝ったら、
俺ら海賊が退く。
もしお前らの代表が負けたら…。」
「負けたら………?」
今度はロックが聞く。
「負けたら………金目の物根刮ぎ頂こうか!!!!そこの不健康そうな兄ちゃんよ、わかったか!!!」
つまりあの船長と一騎討ちして勝てば退いてくれるらしい。
負けたら金目の物を海賊に渡す。
実に簡単だ。
「さあさあ、どうするよ?
そこのショボくれた顔で弓を持ってる兄ちゃんよ!!!」
とジンさんを指差しながら言う。
視界の端ではロストさんが笑い転げている。
多分、海賊の船長が言ったショボくれた顔がツボに入ったのだろう。
サラさんも笑っている。
「……よし、良いだろう!!!!
条件を飲もう!!」
ジンさんが叫ぶ。
「よし!!!
なら代表を決めろ!!!
そこのメガネのオッサンか?
金髪の兄ちゃんか?
はたまた斧担いだオッサンか?
誰だ!?」
船長がサーベルを抜き構えながら聞く。
「ガハハハハ!!!
代表はカイル!!!お前が代表だ!!!」
はい?
聞き間違えたか?
いま自分の名前が呼ばれた様な…。
ロックの方を見る。
ロックは笑いながら肩を叩いて来た。
「はあ………わかりましたよ………戦いますよ…。」
後戻り出来ない。
とりあえず刀を鞘から抜く。
日の光を受け鈍く光る。
「頑張れよ!!!」
ダイソンさんが励ましてくれる。
「ガハハハハ!!お前なら大丈夫だ!」
ガイル将軍が高らかに笑う。
ロストさんはこちらに向かって親指を立てて
「大丈夫」と言うサインを送ってきた。
「おう!!緑髪の兄ちゃんか!!!
よし…始めるか!!!!
野郎共!!!!お前らは船に戻ってろ!!!!」
そう船長が怒鳴ると海賊達は素早くアカツキ船から退散して海賊船に戻った。
甲板で、サーベルを構えた海賊の船長と刀を構えたカイルが睨み合う。
視界の端ではガイル将軍達がこちらを見守っている。
「お手並み拝見といこうか!!!」
船長が突っ込んで来た。
そしてサーベルで斬りかかってきた。
刀で受ける。
火花が散る。
「さあさあ次々と行くぜえええ!!!!」
海賊の船長は雄叫びを上げ、次々と斬撃を浴びせてくる。
「うわっとっと…!!!」
思わず声が漏れる。
致命傷になりそうな斬撃だけを受け流し、後は体を捻り避ける。
「……!!!
なかなかやるじゃないか!!!」
海賊の船長が称賛の声を上げた。
「誉めても何も出ませんよ!!!」
踏み込み真一文字に斬りつける。
「甘えな!!!踏み込みが足りねえ!!」
船長は後ろに軽く飛ぶ。
そこが狙い目。
唯一のチャンスだ。
空中ではどんな奴だろうと身動きがとれない。
もう一歩踏み込み突きを放つ。
もらった。
「良い考えだが、相手が悪かったな!!!!」
刀が動かない。
船長はサーベルを持っていない方の手で刀を掴み突きを止めていた。
「…………マジですか………。」
まずい。
反撃を喰らう。
歯を悔い縛る。
「ほらよ喰らえ!!!」
船長は刀を掴んだままカイルの右脇腹に蹴りを放つ。
「がっ………!!!!!!」
重い一撃だ。
鈍い何かが折れた音がした。
肋骨がいかれたのだろう。
気が付くとカイルの足は甲板を離れ、カイルは２・３m左に吹き飛んでいた。
「もう終わりか?
まあ、なかなか良い線いってたんだがな。」
船長がこちらにゆっくりと近付きながら言う。
「まだまだ……!!!」
口ではなんとでも言えるが、かなりあの一撃が効いている。
どんな脚力だ。
どうにか立ち上がれたが、刀は反対側に落ちている。
絶体絶命とはこの事だろう。
その時だった。
「カイルー…約束は絶対守ってよね!!!」
後ろから彼女の……ルナの声がした…。
そうだ。負けられない。
カイルを中心に風が渦を巻く。
「……やっと本気を出すか…!
面白くなってきたなあオイ!!!」
船長はサーベルを再び構える。
カイルの右手に風が渦を巻きながら集まり、剣の形を造る。
その風の剣を振るう。
風の刃、カマイタチが船長を襲う。
「…………!!!!くっ!!!!!」
船長が唸る。
海にもカマイタチが当たり、水しぶきが高く高く上がる。
上がった水しぶきが雨の如く船に降り注ぐ。
これ以上は限界だ。
剣の形を造っていた風は無くなり、魔法の反動か意識が朦朧としてきた。
降り注ぐ水で船長の姿を確認出来ない。
少しして水が止む。
そこには船長が笑いながら立っていた。
負けた。
純粋にあの船長は強い。
船長はゆっくりとカイルに近付く。
そして肩を叩く。
「お前の勝ちだ。
負けたよ。
なかなか楽しかったぜ!!!」
「はい?………なんで?」
驚きを隠しきれず聞いた。
「俺の命より大切な帽子が真っ二つだぜ!
つまり俺の負けだよ。」
確かに船長が手に取った帽子が真ん中から綺麗に切断されていた。
「……良いんですか?
せっかく稼げるかも知れないのに。」
「良いんだよ。それにお前ら訳有りっぽいしな。
それにお前良い目をしているからな!」
船長はサーベルをしまいながら言う。
「ところで…兄ちゃんよ…その頭の髪飾りはどこで手に入れたんだい?」
「え? これは自分が拾われた時にはもう持っていたらしいんですよ。」
「拾われたって事は親の顔を知らないのか………。」
「ええ…。そうなんですよ…。」
「…………まあ、とにかく約束は約束だからな。
俺ら海賊は退くよ。
えーとカイルだっけな?
縁があったらまた会おうや!」
船長は手を振りながら海賊船へと向かう。
「船長!!!あんたの名前は!?」
船長の背中に語りかける。
船長は一瞬振り向き、
「ランス=タイタンって名前だ!!!覚えておけよ!!!」
そう言うと海賊船に飛び乗り、海賊達に指示し始めた。
アカツキ船に架けられていた橋も回収して、海賊達は去って行った。
違う所で会っていたらきっと………。
と感じてしまう程の人だった…。
時は昼過ぎ。
とりあえず問題は一つ無くなった。
これからどうなるのか…。
