第18話【海上で】
「海って広いねー。」
ルナが船から身を乗り出しながら言う。
「本当、広いよね。」
船の左側からは陸が見えるがカイルがいる右側からは、果てしなく続く海が見える。
視界の端ではジンさんが真っ青な顔色でフラついている。
「ところでさっき私一体どうしちゃったのかな?」
ルナが首を傾げながら聞いてくる。
「何も覚えてないの?」
確かあの時ルナは光に包まれた。
そしてマヒロさんの傷を治した。
「うーん…はっきりとは覚えてないの…。
だけど……。」
「…だけど?」
全く覚えてない様だが何か引っ掛かる事があるのだろう。
「だけどね…あの時…マヒロさんの傷が早く治る様にって強く想ったの。
それだけは確かに覚えているの。」
つまり大切な人を想う力。
その想いに宝玉が答えた…むしろ力を貸したというのか?
宝玉…ただの魔力の塊なのか…?
「ちょっとカイル、何気難しい顔してるの?」
ルナが眉をひそめながら聞いてきた。
「…なんでもないよ。」
とりあえず笑顔で誤魔化す。
「ははっ……良い雰囲気だね………お二人さん…。」
後ろからジンさんが立っているのもやっとの表情で話しかけてきた。
「良い雰囲気だなんてそんな…。」
ルナが顔を真っ赤にしながらジンさんの背中を軽く押す。
その瞬間ジンさんは派手に倒れた。わざとらしいが、多分本当に倒れたのだろう。
「ちょっとジンさん、しっかりして下さいよ。」
とりあえず倒れているジンさんを起き上がらせる。
「いやぁ…本当に船には弱くてね……。」
申し訳なさそうにジンさんは立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
ルナも心配そうにしている。
「ははは…心配ご無用…。
この僕を舐めてもらっちゃ困るよ…………。」
そう言った途端にジンさんは仰向けに倒れた。
船に弱いってレベルじゃない。
例えるなら船アレルギーって所だ。
「………ねえカイル…ジンさんどうしよう…。」
「とりあえず日陰に寝かせておこうか…。」
ひとまず、船のメインマストの陰にジンさんを引きずりそして寝かせておく。
「ジンさん大丈夫かな…?」
ルナが心配そうに聞いてくる。
「まあ大丈夫だよ。
一応、立派な人だし。」
側にあった麦わら帽子を手に取り、ルナの頭に被せる。
「ありがとー♪」
とルナは嬉しそうに言ってまた船から身を乗り出しながら海を見つめだす。
「よう、カイル!さっきぶりだな!それにルナちゃんもさっきはありがとうな。」
ロストさんが不意に後ろから現れた。
「あっロストさん!
あの…マヒロさんは…?」
ルナがおずおずと聞く。
「アタシならここだよ、ルナちゃん。」
マヒロさんがロストさんの陰から顔を出す。
「良かったあ…マヒロさん…。」
ルナがマヒロさんの胸に飛び込む。
微笑ましい光景だ。
「本当に姉妹みたいだなお前ら。」
ロストが双眼鏡で海を眺めながら呟く。
「まあ良いじゃないですか。」
頼れる人が居ることは良い事だとカイルは思った。
その時だった。
カイルの隣に居るロストの動きが止まった。
「ロストさん…?どうしたんですか?」
「……やっぱり来やがった…!
マヒロ!!ルナちゃんを船室に案内して一緒に居てやってくれ!!
カイル!!!ジンを叩き起こして、ガイル将軍とダイソンさん達を呼んで来い!!!
船長!!!奴らだ!!海賊が来やがった!!!
応戦の準備だ!!!」
海賊…出港前にジンさんが言っていた。
「ルナちゃん、とりあえず船室に行くよ。」
マヒロさんがルナを促す。
するとルナがこちらへ駆け寄ってきて、
「カイル…絶対…戻って来てね……。」
そう言うとまたマヒロさんの所に駆けていき、そのまま船内に入って行った。
海賊…負けられないな…と心から思いながらガイル将軍とダイソンさん達を呼びにいく。
これから海賊との戦いが始まる…。