第17話【神の領域】
「お前…『アカツキ』って言ったらアカツキ水軍の主力軍船の一つじゃねえか……」
ロストが唖然としながら呟く。
「でもこの軍船そこまで大きくないっすよね?これが主力軍船の一つなんすか?」
ロックが首を傾げながら聞く。確かにこの船はそこまで大きくなく小さくもない。つまり普通の船と同じ大きさだ。
「よくぞ聞いてくれたロック君……!!!
この船は中に大量の武器が内蔵されているのだよ!!!」
「へぇー…でも見た目はたいして普通の船と変わらないっすね…」
「ならば中を案内してあげよう!!!!」
ロックの一言がジンさんに火をつけたようだ。
ジンはロックの襟を掴み、軍船『アカツキ』の中に引きずり込んで行った。
「ちょっと…ジン大将待って下さいよ!!」
サラさんもジンさんを追ってアカツキの中に駆け込む。
「よし…ワシらも乗り込むか。」
ガイル将軍が側にあった大きな荷物を担いで船に向かう。
ガイル将軍の後ろを歩くダイソンさんは、いつの間にか用意したのか釣竿を担いでいた。
もうやりたい放題だ。
あえてつっこまないが。
「ほら、あんた達も早い所船に乗るよ。」
マヒロさんが元気そうに言うが、かなりきつそうな表情をしている。
「マヒロさん……大丈夫ですか?」
ルナが心配そうに聞く。
「あたしは全然大丈夫だよ。」
と言いながら船に乗り込む。
「マヒロさん待ってよー」
とルナが言いながらぴったりとマヒロさんの隣に寄り添う。
後ろから見ると仲の良い姉妹みたいだ。
多分お互いも姉妹みたいに感じているに違いない。
「なあカイル…後で彼女について…世界について話したい事がある。」
ロストがカイルの隣でぼそっと言う。
「世界…ですか? ………わかりました。」
ロストの表情を見るかぎりかなり重要な話らしい。
「とりあえず船に行こうか。」
カイルはロストに着いていく形で船に乗り込む。
船の甲板はとても広い。
見た目とは違う。
視界の端ではロックの襟を掴んだままのジンがいかにも海の男らしい格好をした、船長らしき男と話し合っている。
ダイソンさんにいたっては既に網を片手に釣りを開始していた。
本当もうただの釣人のオッサンだ。
「カイル、ちょっと荷物を運ぶの手伝ってくれるかのう?」
ガイル将軍が荷物を担ぎながら聞いてきた。
「わかりましたガイル将軍。」
ガイル将軍の側にある樽を担ぐ。
「将軍、自分も手伝いますよ。」
ロストも荷物を担ぐ。
「よし、船室に運ぶかのう。」
ガイル将軍がそう呟きながら歩き出す。
とりあえずカイルとロストはガイル将軍に着いて船内に進む。
何人かの船員とすれちがった。
少し進むと船室に着く。
船室の中はそれなりに広い。
下には絨毯がひいてあり、ソファーもある。
「カイル、ロスト、その荷物はそこに置いてくれるかのう。」
ガイル将軍に指示された通りに荷物を置く。
「あー…ガイル将軍…。」
ロストがガイル将軍に向かって言う。
「わかっている。
カイル…話がある。
そこに座ってくれるかのう?」
話とは多分さっきロストさんが言っていた、ルナについての話と世界についての話だろう。
「……話って一体なんですか?」
腰掛けながら聞く。
「まあゆっくり話そうか。
とりあえず、ルナちゃんについてはこの前話した通りなんだが………。」
ガイル将軍が懐から一枚の紙を取り出し、カイルに渡す。
その紙は『宝玉』についての報告書のようだ。
「とりあえず今世界に存在する『宝玉』の数が気になったからジンに調査してもらったんだが……。
一つはルナちゃんの体の中、
二つ目は…カイル、お前が持ち帰った紙に書いてあった、行方不明の赤子の中に……今はどうなっているかわからないがな。
とにかく今世界に存在するのは、たった二つなんだよ。
その二つの中でもアルタイムが把握しているのは、多分ルナちゃんの『宝玉』だけだろう。
これから予想以上に敵国の襲撃が激しくなるだろうよ。」
とロストが言う。
「今の所ルナちゃんを狙って来ている国は、アルタイムとファクトリーだけだのう。」
ガイル将軍が呟く。
「ガーデンズはどうなっているのですか?」
気になったので聞く。
「ガーデンズはアカツキと友好関係……つまり同盟国だからな…。
大丈夫だろう。」
つまり当面の敵はファクトリーとアルタイムらしい。
「しかし、アルタイムは魔法国家。
ファクトリーは最大の軍事国家。
もしこいつらが組んだなら面倒だな…。」
「……なんでアルタイムは…魔導兵器なんか作ったんでしょうか?」
ルナは魔導兵器として実験台にされた。
何故アルタイムはそんな事をしたのか気になる。
「あー…今四ヵ国が資源を奪い合い、いたる所で争いが起きてるよな?
ダイソンさんが言うにはアルタイム軍上層部は魔導兵器を作り、それを戦場に投入して戦局を引っくり返すつもりだったんだろうな。
そして資源を手に入れるって言う計画だったんだろう。」
「自分勝手な理由ですね…。」
その時だった。
勢い良く船室の扉が開く。
そこには、息をきらしさらには涙目のルナが立っていた。
「マ……マヒロさんが………。」
何が起きたのか?
「…?どうしたよルナ。」
駆け寄りルナに聞く
「…マヒロさんが……凄い熱で……倒れたの……」
ルナが詰まり詰まり言う。
今にも泣きそうだ。
「マヒロが!? 今マヒロは何処にいる!?」
ロストが強い口調で聞く。
「ロスト君。
そこまで強く言わないでくれ。
マヒロ君ならここだよ。」
ルナの後ろからダイソンがマヒロを担いで現れた。
「ダイソン、マヒロをこっちへ寝かせてくれるかのう。」
ガイル将軍がソファーにダイソンさんを促す。
「カイル! ちょっと手伝え!」
ロストに言われてマヒロさんをうつ伏せにする。
熱い。
マヒロさんの体はかなりの熱をおびている。
ロストがすぐにマヒロさんの服をずらし、背中の包帯をゆっくり剥がしていく。
「っ………!!」
マヒロさんの横でマヒロさんの手を握っていたルナが言葉を失う。
「まずいのう……化膿が酷い………。」
傷口はかなり膿んでいた。
かなり無理をしていたのだろう。
「…とりあえず膿を出すしかないな…。」
ダイソンさんが呟く。
「はあ…無理しやがって…。」
ロストが消毒薬とハサミを取り出した。
「すまないね……ロスト……それに皆……。」
マヒロさんがぼそっと言う。
「マヒロさん…………。」
ルナが目を瞑りマヒロさんの手を強く握る。
その時だった。
急にルナが光に包まれる。
「…!!!! カイル下がれ!!!」
ガイル将軍が言う。
「……これは………?」
ダイソンさんも慌てだす。
ルナは光に包まれたままそして目を閉じたまま立ち上がり、マヒロさんの傷口に手をかざす。
「………え?」
思わず驚きの声をあげてしまった。
ルナが手をかざした所にある傷口がじょじょに、回復していたのだ。膿まで無くなってきている。
「そんな馬鹿な……回復魔法だって……?
ありえないぞ…。」
ダイソンさんが呟く。
どんなに魔法が上手くても、天才・奇才と呼ばれた人物でも回復魔法は使えない。
回復魔法はまさに神の領域と言っても正しい。その事はカイルでも知っている。
一つルナが回復魔法を使える理由としたら……『宝玉』だろう。
少し経つとマヒロさんの傷は綺麗に治った。
そしてルナを包んでいた光も消える。
「あれ……私一体………。」
ルナはハッキリとは覚えていないようだ。
「……まあ、とりあえずはありがとうなルナちゃん。」
ロストがルナの頭を撫でる。
マヒロさんは寝てしまっている。
背中の傷は跡形も無くなっていた。
「まあ 結果オーライだね。
そうそう、そろそろ船が出発するみたいだね。」
ダイソンが呟く。
確かに船が揺れ始めている。
「あー…ガイル将軍達は甲板に先に上がっていて下さいよ。
マヒロは自分に任せて下さい。」
ロストが言う。
「うむ そうだのう。
ワシとダイソンは釣りでも楽しむか!!」
ガイル将軍が笑いながらダイソンの肩を叩く。
「それじゃ自分もルナと一緒に甲板に行きますよ。」
とりあえずルナを連れてダイソンさんの後を着いて甲板に向かう。
「それじゃカイル君 私達はあっちで釣りでもしてるよ。
用があったら遠慮せずに呼んでくれよ。」
「それじゃあ船旅を楽しめよカイル!!!」
二人はそう言い残し、船の後ろの方へ歩いていった。
ルナは海を見ながらはしゃいでいる。
空が青く風が気持ちいい。
船はマイロタウンから大分離れたようだ。
視界の端ではロックがサラさんと喋っている。
まあ一応、応援してやるか。
その反対側ではジンさんが仰向けに倒れている。
本当に船には弱いらしい。
そういえば、ジンさんも『十三武神』の内の一人『千里眼』と呼ばれているらしい。
意外だ。
まあ人は見掛けによらないから見た目だけで、判断するのは失礼だ。
とりあえず出港までは予定通りだ。
これからどうなるかはわからないが。