第16話【港町へ】
馬車の中。
「カイル君には自己紹介したけど、
私はサラって言うの。
よろしくね。」
サラさんが簡単に挨拶する。
「よろしくお願いしますサラさん。」
ルナがサラさんに言う。
しかし妙だ。
隣に座っているロックが静かだ。
いつもなら真っ先に騒ぎ出すのに、今日は馬車に乗ってから一言も喋っていない。
「おい、ロッk…………」
ロックに話しかけるが、途中で言葉が詰まってしまった。
何故なら…ロックの顔はなんとも言えない表情で、視線はサラさんに釘付けだったからだ。
まさか…とりあえずロックの目の前で手を振る。
反応をしめさない。
これは重症だ。
「ロック君?…変な物でも食べたのかい?」
ジンがその様子に気付きニヤリと笑いながら言う。
「いえ…大丈夫っすよ…」
そうロックは言うと馬車の外の風景に目を移す。
ジンの隣でマヒロが必死で笑いを堪えていた。もちろんカイルも必死で笑いを堪えている。
「ねえカイルどうしたの?」
場の状況が掴めないルナが聞いてくる。
「後で…詳しく…説明するよ…。」
笑いを堪えながら詰まり詰まり言う。
「えー…つまんないの…。」
ルナが肩を落とす。
「そうだルナちゃん。
外を見てごらんよ、
良い景色だよ。」
マヒロさんがフォローしてくれた。
「ねえマヒロさんあれ何ー?」
ルナがマヒロさんに向けて質問攻めを開始する。
しかしマヒロさんは素早く正確に次々と優しく答えていく。
優しい母親みたいだ。
その時ロックが、
「なあ…カイル…俺……俺…」
と呟いてきた。
「ああ…それ以上言うなロック…。わかってるって…。」
「一目惚れだぜ………。」
そうロックが呟いた瞬間、堪えきれずに爆笑してしまった。
ジンも思い切り笑いころげる。
「お前ら酷い!!!酷過ぎる!!!
笑う事は無いだろう!!!」
ロックが叫ぶ。
「だって………ロック君………真顔で……言うから………ツボに入った……んだもん……ははははは!!!」
ジンが腹を抱えて爆笑しながら言い訳をする。
「ジンさん……笑い過ぎ……は…ははははは!!!」
笑いが止まらない。
誰か助けてくれ。
「真顔で一目惚れは反則だよねサラ君………あー…腹痛い。」
ようやく平静を取り戻したジンがサラに向かって呟く。
「えー私に惚れたら、火傷するぞ。」
とウインクしながらサラさんがロックに向かって冗談半分で言う。
冗談半分なのだ…が。
「は…はいいいい!!!」
と顔を真っ赤にしながら、情けない声を発しカクンと気絶した。
「あちゃー………またか……」
ロックは興奮し過ぎてたまに気絶する癖がある。
不健康さならではの癖だ。
「え…? ちょっとロック君!?」
サラが慌ててロックに近付き肩を掴んで揺らす。
「大丈夫ですよ、サラさん。
しばらくしたら目覚めますよ。」
「そう…? なんか悪い事しちゃったかな?」
「サラ君、まあロック君なら大丈夫だろう。」
ジンがどこからか取り出した本を片手に言う。
「そろそろマイロタウンに着くよー!!」
ダイソンの声が響く。
「もう着いたのか。
ほらカイル君ロック君を叩き起こしてやりなさい。」
とりあえずロックの頬にビンタを喰らわせる。
「……ん……ああ…おはようさんカイル。」
「ロック君大丈夫? まさか気絶するとは思わなかったから……」
「全然大丈夫っすよ。
いつもの事ですし。」
と冷静になったロックが言う。
気絶した後は決まって冷静だ。
馬車が止まった。
「よし、マイロタウンに着いたぞー。」
ダイソンさんの声が響く。
「カイルー早く早くー。」
既に馬車から降りていたルナがカイルの服の袖を掴み引っ張りながら急かしてくる。
「はいはい、今降りるよ。」
馬車から降りる。
賑やかだ。
今馬車が止まっているのは町の出入口のようだが、かなり人が多い。
周りにはカイルが乗って来た以外の馬車が沢山停まっていた。
さらに風が吹くたびに、磯の香りが漂ってくる。
かなり海が近いのだろう。港町だから当たり前か。
「これが海の臭いかー♪。」
とルナはカイルの服の袖を掴んだままはしゃいでいる。意外とルナは身長が高い事に気付く。カイルとの差は大体5cm位だろうか?
「マヒロ大丈夫か? まさか潮風が傷に染みるとか無いよな…?」
荷物を担いだロストがマヒロに寄り添いながら言う。
「ギリギリって所だね…。」
マヒロの額には冷や汗が流れている。
「早い所船に向かうかのう。」
ガイル将軍がマヒロさんを気遣ってか町中に向かって歩きだす。
「ほら行こうか。
サラ君、ロック君、いちゃいちゃしないでよ。」
ジンさんがニヤリと笑いながら言う。
ロックの顔がまた真っ赤になった。
「ほら、ロック君行くよ!」
サラさんがジンさんに着いて先を歩く。
町の中は港町だけあって賑やかだ。
いたる所で店が開かれており、魚介類が並んでいる。
「へぇー…町ってこうなっているんだー…。」
ルナが目を輝かせながら感心した様に言う。
しばらく歩くと広い場所に着く。
海が見える。左の方には桟橋に着けた大きな船がある。
「紹介しよう。あの船が僕達が乗る船『アカツキ』だ。」
これから船旅が始まる