第14話【休息】
とにかく暇だ。
とりあえず、居間に戻る。
「おはようさんカイル!!!」
ソファーにはロックが座っていた。
多分目が覚めたのだろう。
「お前…今頃起きるなよ…」
どうしようか。
ロックにカトルの裏切りの件を言わなければならない。
「よし、カイル!風呂行こうぜ風呂!!」
急にロックが提案した。
チャンスだ。
風呂なら裏切りの件を伝えられるチャンス。
「よし、行くか。」
すぐに準備をして風呂へ向かう。
ロックの顔はジンから受けた電撃のせいか少し黒く汚れている。
「お前顔汚ねえな…。」
カイルは呟く。
「だから風呂行こうぜって言ったんだよ。」
なんだかんだ二人でつつき合いをしているとすぐに風呂に着く。
服を脱いで風呂場にロックが突っ込む。
本当に元気な奴だ。
とりあえずカイルも服を脱いで風呂場に入る。
もう既にロックは浴槽の中に入っていた。
何度見ても広い風呂場だ。
浴槽も馬鹿みたいに広い。
とりあえずカイルも浴槽に入る。
裏切りの件を言うならいましかない。ロックはかなりショックを受けるに違いない。
「なあ…ロック…カトルさんの事なんだけどさ…」
「あ?ああ、あの糞野郎裏切ったんだろ?」
「……へ!?なんでお前それを……。」
予想外だ。
原因は知らないがロックは裏切りの件を知っていた。
「あの作戦が失敗する原因なんて、裏切りしか考えられないからな。
ガイル将軍、ロスト中将、マヒロ姉さん、カイルお前も裏切る筈が無いからな。
つまり、裏切ったのはあの糞野郎だって思ったのさ。」
忘れていた。
昔からロックは勘や考えが鋭い。
「なんだよ、知っていたのかよ。」
「バーロー、俺を舐めるなよ!」
ロックはそう言うと浴槽から出て、風呂場から出ていこうとする…が。
「ぎゃあああああああ!!!」
ロックの切ない悲鳴が響く。落ちていた石鹸を踏み、滑って派手に転んだのだ。
「………本当…情けない奴だな……。」
ロックの近くに行き、軽く蹴る。
すぐにロックは飛び起きる。
頭を打ったようだ。
後頭部の辺りをさすっている。
「痛ててて……」
「ほら、部屋に戻るぞ。」
カイルとロックは服を着て、部屋に向かう。
部屋に着いた。
居間にはダイソンさんとジンさんがいた。
「やあカイル君ロック君。」
ダイソンが眼鏡をいじりながら言う。
「風呂帰りかい?」
ジンが煙草をくわえながら聞く。
「そうっすよジンさん。」
ロックがさっき打った後頭部をさすりながら言う。
「…ジンさんこれからどうするんですか?」
カイルが聞く。
「うーん…とりあえず、アカツキ国を目指すんだけどね…。」
ジンは地図を机の上に広げる。
「今私達がいる場所はここだ。」
ダイソンがラスク砦と書かれた部分を指差す。
「次に、アカツキ国はここ。」
ジンがアカツキ城と書かれた位置を指差す。
「これは…海路を通るんですか?」
ラスク砦からは海を渡って行った方が地図上では距離が短い。
「そうだよ。
とりあえずここから港町マイロタウンに向かうよ。
ただね…。」
「ただ?なんだよジンさん。」
ロックが聞く。
「実は僕船酔いが酷いんだ。」
「馬鹿かお前は…。」
ロストがいつの間にかカイルの隣にいた。
「あれ?ロスト、マヒロはもう大丈夫なのかい?」
ジンが聞く。
「マヒロならさっき意識が戻ってな。
少し話したらすぐに寝たよ。」
ロストはそう言うと居間の棚から酒のボトルを取る。
「まあ本当に海路は問題があるんだよ…。」
ダイソンが煙草をくわえ、魔法で火をつけながら呟く。
「問題ってなんだよオッサン。」
ロックが聞く。
「海賊が現れるらしいんだよ。」
ジンが今度は真面目に言った。
「海賊…ですか?」
今の時代じゃ海賊も沢山いる。
カイルも幾度か海賊達と戦った事もあった。
「それに今回は軍を引き連れてじゃなくて、僕、ガイルさん、ダイソンさん、ロスト、マヒロ、ロック、カイル、ルナちゃん、のメンバーで行くからね。」
つまり、敵の目を引かないように軍を連れずに静かにアカツキを目指すって事らしい。
「もし海賊と一戦交える事になったら厄介ですね…。」
「それに僕の船酔いもね。」
ジンが言った。
「本当お前海に沈めてやろうか?」
「うるさいな『漆黒のゴキブリ』め。」
「黙れよ馬鹿息子。」
カイルの視界の端でロストとジンが取っ組み合いの喧嘩を開始した。
「まあとりあえず、出発は明日の朝だな。
ここに居ると他の軍が襲って来るかもしれないしな。」
ダイソンは喧嘩している二人を無視して話を進める。
「ルミネ少将はどうするんですか?」
「彼女はこの砦の守備隊長だ。
流石に同行願うのは無理だろう。」
ダイソンは答える。
「ルミネ少将って誰?ねえ誰?」
ロックが聞いてくる。
しつこいので、今まであった事を全て伝えた。
戦の事等を。
「…俺が寝てる間にそんな大変な事が…。」
ロックが呟く。
「とりあえず、明日に備えて休みなさい。
私はもう休ませてもらうよ。」
ダイソンは煙草の火を消して、寝室に入っていった。
相変わらずロストとジンは取っ組み合った状態だ。
「お先に俺は寝るよ…。」
ロックはそう言い残し、寝室に戻る。
すると突然、居間の扉が開く。
そこにはルミネ少将が軍服姿で立っていた。
まだロストとジンは取っ組み合っている。
「ジン大将。
頼まれていた人材についてですが………。」
「やっと見付かったか!」
いつの間にかロストとジンは取っ組み合いを止めていた。
「はい。
確か諜報能力が優れている人物を探してきてくれとの命令でしたよね?
適任が見付かりました。
入ってきて良いわよ!!!」
ルミネは外の誰かを呼ぶ。
「失礼します。」
扉を開いて一人の人物が入ってきた。
女性だ。八重歯が目立つ。
髪は薄い桜色をしている。
その髪をルミネ少将と同じ様に後ろで束ねている。年齢は多分ロストより少し若いだろう。
「私はサラ=ラピッド少尉と申します。
ジン大将よろしくお願いします。」
彼女は…サラは堅苦しく挨拶した。
「そんな堅苦しくなくても良いんだけど……まあ良いや。
こっちの金髪はロスト中将だ。
そっちの緑髪の彼はカイルだ。」
ロストと一緒にサラに挨拶をする。
「ロスト中将とカイル……少尉?」
サラが首を傾げる。
「自分はただの傭兵ですよサラさん。」
カイルやロック、マヒロには官位はない。立場上雇われた傭兵だからだ。
「そうなんだ…とにかくよろしくお願いしますね。」
「さあさあ、ルミネ少将もサラ少尉も早く休みなさい。
明日は早いぞー。」
ジンが言う。
「わかりましたジン大将。
それでは失礼します。」
ルミネ少将がサラを連れて部屋を出ていった。
「さてと、俺も寝るよ。」
ロストも寝室へ向かう。
そろそろ流石に眠くなってきた。
「ジンさん…そろそろ自分も寝ます。」
「わかったよカイル君。」
カイルは寝室に入る。
ルナは気持よさそうに寝ている。
ガイル将軍はイビキがうるさい。
とにかく、寝よう。
髪を束ねている髪飾りを外す。
この髪飾りは自分が拾われた時から持っていたらしい。
ベッドに潜り込み、目を閉じる。
そのまま深い眠りについた…。