第13話【過去】
カイルは刀を構え、声を上げながらこちらに来る敵兵を斬る。
視界の端ではルミネ少将が体に似合わない大きい鉄槌を振り回している。
ロストはマヒロの側で敵兵から奪った剣で次々と敵兵を斬り捨てていく。
マヒロはロストの側を離れず、援護をしている。
だが敵の伏兵の方が圧倒的に数が多い。
こちらは兵をかき集めて、大体二千位。
相手は八千は下らないだろう。
「不利過ぎるだろ…」
カイルは呟く。
その時、赤い鎧を着たラッシュ中将が剣を片手に突っ込んでくる。
「我が名はラッシュ=ガイダンス!魔導兵器を頂きにきた!!」
「あんたの相手はあたしがしてやるよ!!!」
流石に今のロストでは中将を相手にするのは無謀と考えたマヒロがラッシュ中将の前に立ち塞がる。
「マヒロ!!!無理すんな!!」
ロストがマヒロに言う。
「女が相手とは…!
我も舐められたものだな……!!!!」
ラッシュ中将の剣が唸りを上げながらマヒロに襲いかかる。
「女だからってなめるんじゃないよ!」
マヒロはレイピアを上手く扱い、ラッシュ中将の一撃を受け流す。
そしてすぐに突きを放つ。
だがラッシュ中将はそれを軽く打ち払う。
マヒロはラッシュ中将相手に避けながら戦いを展開する。
カイルも目の前に迫ってくる敵の攻撃を避け、蹴りを喰らわす。
その時だった…。
マヒロとラッシュ中将の戦いに敵兵士が割り込み、マヒロの後ろからマヒロを斬りつけたのだ。
マヒロの背中から血が噴き出す。
「くっ………!!!」
マヒロがその場にうずくまる。
まずい。
カイルのいる位置から全力で駆けても間に合わない。
「馬鹿め…!戦場は常に一対一だと思うなよ女!!!
死ねえええ!!!」
視界の端ではロストが必死の形相で走って来ている。
間に合わない。
その時カイルはダイソンの言葉を思い出す。
「魔法はイメージだイメージ」
カイルは刀を地面に突き刺す。
カイルを中心にして大気が渦を巻き始めた。
地面に刺した刀を引き抜き、
ラッシュ中将に向けて一振りする。
刀の先端から竜巻が放たれた。
地面をえぐりながら、敵兵を吹き飛ばしながら、ラッシュ中将目がけて突っ込んでいく。
「何だと!?」
ラッシュ中将は思いきり横に転がり、カイルが放った竜巻を回避した。
ラッシュ中将が居た場所は竜巻にえぐりとられて、大きな窪みが出来ている。
「よくやった…カイル…!!」
ロストがそう呟やき、カイルの隣を駆けていく。
カイルもロストの後を追い掛ける。
ロストがマヒロに駆け寄り、抱き上げる。
「おい!!マヒロ!!大丈夫か!?
…くそっ…ルミネ少将!!来てくれ!」
マヒロは力無くロストにしがみついている。
ルミネ少将が兵を率いて走って来た。
「カイル、ルミネ少将…マヒロを頼む…!!
ロストはカイルにマヒロを任せると立ち上がる。
ロストの体が炎を纏いだす。
だが、なにかが違う。
アルベルト大将の時は真紅の炎だったが、今の炎はドス黒い炎だ。
本当に…『漆黒の死神』の名の通りだ。
ラッシュ中将がまた現れる。
「ちっ……殺り損ねたか……。
だがロスト中将!お前を殺ればそれなりの褒美が貰えそうだな!!!!」
ラッシュ中将は剣を地面に突き刺す。
剣を中心に地面にヒビが入る。
ヒビから水が噴き出す。
水は龍の形を作り、その龍はロストに襲いかかる。
「火は水で消える!!!って事で死んでもらおうか!!!」
ラッシュ中将が高らかに笑う。
「馬鹿だろ?お前。
火が水を消す事も出来るんだよ!」
ロストが駆け出し、正面から水龍とぶつかった。
その途端、音と共に辺りに霧が現れる。
そして霧が晴れる。
そこには…血まみれの剣を持ったロストと、体に大きな切傷がついて倒れて息絶えたラッシュ中将がいた。
「蒸発だよ馬鹿。」
ロストはそう呟くと剣を投げ捨てた。そして体からドス黒い炎が消える。その時だった。
「ジン=アカツキ参上!!!
さあさあ敵将はロスト中将が討ち取った!!!
後は残党を排除するんだ!!!」
ジンは移動式砲台の上で叫ぶ。
多分その砲台の準備で遅くなったのだろう。
砲台が火を吹く。
砲弾が敵の残党に炸裂する。
ジンは反動で砲台の上から落ちた。
ロストはそれを普通に無視をして、カイル達の所に駆け寄る。
「マヒロは!?」
マヒロの背中の傷はそこまで深くないが、大怪我の部類にはいるだろう。
それに…カイルは見てしまった。
マヒロの応急処置をするとき、背中に酷い火傷の跡があるのを…。
「とりあえず、応急処置はしましたが…しばらくは絶対安静でしょう。」
と医療班の兵が言い残し、一礼して次の怪我人の所へ走り去っていった。
今の戦況はほとんどアカツキが勝っている。
ジンが持ってきたあの砲台と、ラッシュ中将の死という知らせで、ファクトリーは戦意を喪失してしまってもう敗走している。
「とりあえず、アカツキの勝利って事か…」
カイルは呟く。
ガイル将軍も追撃から戻ってきた。
向こうの本隊も敗走し始めたらしい。
マヒロの治療が終わるのを待ち、カイルはロストと一緒に部屋の寝室へマヒロを運び込む。
ロストはマヒロをベッドに寝かせた。
まだマヒロは意識を失ったままだ。ルナとロックはぐっすり寝ている。
ガイルはダイソンと共にジンの部屋に行き、ジンと話している。
ルミネ少将は被害を調査している。
「ロストさん…マヒロさんの背中の火傷の跡は………」
聞いてはいけないような気がしたが、決心をして聞いてみた。
「ああ…見たのかお前………。
あの跡はな…俺やマヒロがまだアカツキに居た時に…………………俺が………マヒロにつけたんだ…。」
「ロストさんが?」
「ああ……とある戦の時にな、俺の炎の魔法が暴走したんだ…。
敵と味方両方巻き込んだ大惨事になったよ…。
その時、マヒロも巻き込んじまったんだ。
…俺はそれから魔法を使うのを辞めて、軍を抜けたんだよ…。
そしたら、ガイル将軍と出会ったんだよ…。
あの人に惚れ込んでな…それからアルタイムに入軍したんだ。
それからは今に至るってわけだ。」
ロストはマヒロの髪を撫でながら言う。
2人に何かあると感じていたが、まさかそんな事があったとは。
「なあカイル…お前に気を付けて貰いたい事がある。」
ロストが真剣な表情で言う。
「なんですか?ロストさん」
「魔法ってのはな、使う人間の感情によって色々左右されるんだ。
魔法を使う時には冷静になれよ。
今日みたいにな。」
ロストはカイルの肩をぽんと叩く。
「はい!わかりました!!」
「しかし…お前初めての魔法が竜巻だとはな…驚いたよ。」
「そうですか?」
内心照れているが表情に出さないようにする。
「俺なんて最初の魔法は火花だったんだぜ。」
ロストは指を鳴らす。
すると火花が散る。
「でも魔法って難しいですよね。」
「まあな。下手したら暴走するからな。」
「ええ………自分ちょっと居間で休みます。」
ここは空気を読み、マヒロとロストを二人っきりにしよう。
「…あー…わかった。
俺はしばらくここにいるよ。」
ロストは頭を掻きながら言う。
ルナは安らかな顔で寝ている。
ロックは腹立つ位の笑顔で爆睡している。
ひっぱたいてやろうかと思うが、とりあえず居間に行く。
そしてベランダから外を眺める。
綺麗な三日月だ。
まだ時間は八時を回った位だろう。
右目の古傷が痛む。
この古傷は、カイルが傭兵団に拾われた時からついていたらしい。
と言ってもまだ本当に小さかった頃だからまったく覚えていない。
「ガハハハ!カイル、どうした!?」
聞き慣れたあの声。
ガイル将軍がカイルの横にやってきた。
「将軍…確か将軍と初めて会ったのはいつごろでしたっけ?」
「急にどうした?…
まあいい。確か……お前が7・8歳の時だったかのう?
あの時のお前、目が死んでいたのう。」
ガイルが笑いながら言う。
「はははは…。
…将軍が俺の世界を変えてくれたんでしたよね…」
当時の事は覚えている。
世話になっていた傭兵団が全滅して、親同然の傭兵達が皆死んだ。
その傭兵達が死ぬ前に、必死になってカイルを戦場から逃がしてくれた。
その後、生きる希望を失った幼いカイルは広い草原を独りさ迷っていた。
その時に遊撃の任務に就いていたガイル将軍が拾ってくれたのだった。
ちなみにその当時からマヒロの傭兵団はガイル将軍に雇われている。
「ガハハハ!!まだ小さな餓鬼が草原を独り歩いていたんだからな!
流石に驚いたのう。」
ガイルはまた高らかに笑う。
ガイル将軍は最早カイルからすれば父親同然だ。
ガイル将軍がどう思っているかわからないが、少なくとも自分はそう思っている。
「ところでカイル…お前は寝ないのか?ワシはそろそろ寝ようと思っているがのう。」
「自分はもう少しここに居ます。
将軍、おやすみなさい。」
「そうか…。
…じゃあおやすみだのう、カイル。」
ガイル将軍はそう言い残し、どすどすと寝室へ歩いていった。
まだ肌寒い。
カイルは左拳を開く。
掌に水を集めるイメージをする。
すると、もやが集まり始める。
そして水の球が掌の上に出来る。
それを軽く握り潰す。
水は空気中に四散した。
少し魔法に慣れてきた。
さて、まだ眠くはない。
これから何をしようか…
夜はまだ始まったばかりだ…。