第12話【防衛戦】
月明かりが明るい。今砦の外壁の上にカイルは立っている。
「……ちょっとこれは多過ぎない?」
ジンの表情がひきつる。
ファクトリーの軍勢は灯りをともしながら大軍で攻めにきていた。
広い砦の正門の正面に火の明かりが大軍となり進軍してきている。
「先程の最新の情報ですと数は三万との事です。」
「多いな……ん?」
ロストが何かに気付く。
大体1kmほど離れた所にファクトリーは陣を作り始めた。
そして火が一つ、砦に近付いてくる。
そして正門の目の前でその騎馬は止まる。そして大声で、
「ラッシュ中将の伝言だ!!!!
『魔導兵器をこちらに引き渡せ。
渡さなければ、武力で奪っていくぞ。』との事だ!!!!!
アカツキ軍大将ジン=アカツキ殿!!!返答はいかに??」
とラッシュ中将からの伝言を伝えてきた。
「決まっているだろう!!!
『断る!』と伝えてくれ!!!!」
ジンも負けじと怒鳴る。
「ジン=アカツキ殿!!!了解した!!!後悔なさるなよ!!!」
と言い残して陣に駆けて行った。
「さあて…ワシはいくぞ。」
ガイル将軍が下へ降りていく。
そして砦の正門が音を立てて開く。
アカツキ軍が砦から200m離れた所で陣を作り始める。
カイルは念のために砦に残れとガイルに命令された。
陣の前衛にはガイルとガイル直属の軍がいる。
「よし…一番、二番、三番、四番砲台、準備を!!!」
ロストが叫ぶ。
慌ただしくなる。
すると、いつのまにか鎧に着替えたルミネ少将が、
「カイル君?よろしくお願いしますね。」
と声をかけてきた。
「こちらこそ、よろしくお願いしますルミネ少将。」
カイルも挨拶をする。
「来たぞ!!!!!」
ロストが呟く。
ファクトリーが動き始める。
三段に構えたファクトリーの第一陣、先鋒が突っ込んでくる。
ジンは弓を構える。
ルミネも弓を掴み構えた。
「…一番、二番、三番、四番砲台…撃てーっ!!!!!」
ロストが叫ぶ。
轟音と共に砲台から砲弾が撃ち出される。
砲弾が敵軍の先鋒に直撃する…が先鋒の数が少し減っただけで動きを乱さずに突っ込んできた。
「矢を放て!!!!」
ジンの合図と共に味方の弓部隊が砦の上から、敵の先鋒に矢を射始める。
次々と敵は矢に射たれ倒れていく。
だがやはり最初よりも敵先鋒の数は減ったが、勢いは減らない。
「しょうがない…アレを使うか…」
ジンはそう呟くと右手で矢を持ち、弓を引き絞る。
するとジンの右手から炎が溢れ出し、矢に集まりだす。
そしてジンは炎が宿った矢を放つ。
矢は風を斬るようにして先鋒に当たる。
その瞬間、炎を纏った矢が小爆発を起こす。
少し、先鋒の動きが乱れた。
ガイル将軍はその隙を見逃さなかった。
ガイル将軍を先頭に、直属の軍が一列になり敵先鋒軍に突っ込む。
そして深く敵先鋒軍に突き刺さる。その後すぐに味方軍の両翼が敵に突っ込み、敵を散らす。あっという間に敵の先鋒軍は敗走して本陣へ撤退を開始した。
「凄い…!」
カイルは唖然とするばかりであった。今までいつも戦場に居たので全体の動きを見れる筈もなく、初めて見る光景に驚くばかりだった。
「臭いな…どうにもおかしい…」
隣にいたロストが呟く。
「どうしたんですか?」
「いや…敵の動きがおかしいんだ…」
「確かにおかしいわねえ…」
マヒロも言う。
「……………?」
カイルは首を傾げる。
「なあカイル…もしお前がラッシュ中将だったらどう攻める?」
「………数で勝っているのでとりあえず全軍で攻めますね。」
カイルは気付く。
カイルの顔を見てマヒロは言う。
「それが当たり前で勝率の高い戦法なんだけどね…今のファクトリーはどうだい?」
…確かに不自然だ。
まるでガイル将軍を誘っているような陣だ。
先鋒軍にしても撤退が早すぎる。
「…嫌な予感しかしないな…」
ロストが、追撃を開始したガイル将軍の軍を双眼鏡を使い覗きながら呟く。
ガイル将軍の軍は、二万弱。
ラッシュ中将の軍は少し減り、二万強。
互角まではいかないが、良い勝負になる。
ガイル将軍もその事を踏まえた上で追撃を開始したのだろう。
そしてラッシュ中将の軍本陣も少しずつ後退し始める。
その時だった…!
カイル達がいる正門の反対側で歓声が響きだす。
「………………!!!ジン!!!」
ロストはジンに叫ぶ。
「わかっているよ!!!!
ルミネ君!余った部隊を反対側の門に向かわせろ!!!
伝令!!!今すぐガイル将軍を呼び戻せ!!!カイル君、ロスト、マヒロ!先に反対側の門に行ってくれ!!僕もすぐに行く!」
ジンは素早く的確に指示をする。
カイルは駆け出す。
反対側の門に。
ロストとマヒロも後ろから駆けてきている。
その更に後ろには兵をかき集め、その兵を率いてルミネが駆けている。
「くそっ…多分ガイル将軍が追撃している本陣は偽物だ。
あそこにラッシュはいない…。」
つまり…。
「あの野郎まんまと俺らを罠にはめやがった!!!!」
カイル達が駆け付けた時には既に遅かった。
裏門は破られ、敵の伏兵が雪崩れ込んでいた。
その中に一際目を引く真っ赤な鎧と兜を着けた人物がいる。
「悪趣味な鎧だねえ…悪名どうりか…ラッシュ中将…」
マヒロが呟く。
これからカイルの戦いが始まる…