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〜百物語〜

「本日ここにお集まり頂いた皆様方は

実に幸運な方達、、、、かもしれない」


老若男女が大きく円座している真ん中で

小太りの男が満足そうに微笑んだ。


「それでは皆様、お手元の蝋燭に灯りを一つ

灯して下さい。」


暫く皆の様子を伺っていた小太りの男だが

98本の蝋燭に灯りが灯ったのを確認すると

自分の定位置であろう上座に置いてある

絹糸で紡いだ紫の座布団に腰掛け、

目の前にある2本の蝋燭に灯りを灯した。



「ひとつつむげぇ」




シャラン ドン


と、脇にあった錫杖を捻ると

静かに語り出した。







草木も眠る丑三つ時


ご存知の通り生ある者は皆活動を辞め

静かに眠りにつく時間でございます。



遠く遠くの昔には丑三つ時は忌み嫌われ



出歩きなさるな


戸を開けなさるな と、


戒められておりました。




生ある者が活動を辞める時間、、、



それ即ち生無き者の時間なのでございます。



そんな時間帯でございますから

それにまつわる話も数多くございます。



ある者は奉公先の大旦那の言いつけで

届け物をした帰りに遅くなって

死者の行列を見たり


またある者は真夜中戸を叩く音で

目が覚め、道に迷ったからと

この世のものでは無い者を入れてしまったり


そのどれも良きにあらず、

恐怖に慄く事になるのでございます。



しかし今は平成の世、


街に出れば店には灯りが灯り

人々は揚々と活動している。


丑三つ時の戒めは今はもう遠い昔に

忘れ去られてしまったのか?






いいえ、決してそうではございません。


先程わたくしが

「本日お集まり頂いた皆様は

幸運な方達かもしれない」と申しましたのは

わたくしが直接体験した事をお話しできる事、

丑三つ時の戒めは現代も尚息づいているという事を

お分かり頂けるからでございます。




前置きに一区切りつけた小太りの男は

反応を確かめるように集まった人々の様子を

見渡し、さらに続けた。




丑三つ時にまつわる話で

真夜中の二時ちょうどに鏡を見てはいけない

という話がございます。


自分の死に顔が見える

はたまたその顔が語りかけてくるなど

様々ありますが、

こういう会を催す者としては、、、

いや、自分の死に顔が見たいという

興味本位で見たのでございます。



二日前の事でございます、

丑三つ時の怪 とでもいいましょうか、

その日時計をこまめに確認しながら

色々と準備を致しました。

姿見を家の北側に向けて置き

部屋を暗くして今や遅しともどかしい

時計の針を眺めておりました。


この年になると日が経つのが早く感じられる

ものですが、この日ばかりは随分と遅く

感じられました。


まぁ今思えば私自身への警告だったのかも

しれません。


ゆっくりと時間が過ぎようやく分針が

頂点に達するのを見計らって、

準備していた姿見の前に身をおいたのでございます。



すると、


「すると自分ではない他の誰かが映っていた!」


予想だにしていない方向からの急な発言に

小太りな男の話に集中していた皆の視線が

訳知り顔の細身な男性に向いていた。


そんな空気を読まない発言を

予期していたかの様に小太りの男は

静かな口調のまま話を続けた。


いえ、誰かが映ってくれていたならまだ

よかったのかもしれません。

しかし実際は何も映っていなかったのでございます。


「なんだ、それじゃあ怪談にならないじゃないですか!」

またも先程の男が横槍を入れる。

ここまでくると、他に集まった人々は

不快感を全面に出して細身の男を見つめていた。

この時、誰かが一言でも注意をしていたら

怒号の如く皆に叩かれていただろう。


しかしそんな張り詰めた空気の中で

唯一落ち着いていたのは語り手の男性だった。


ハハ、、あなた様の言う事はごもっとも。

私以外の誰も映っていなかったらそれは

怪談になりません。

でもわたくしが言いたいのはそう言う事では

なく、私自身姿見に映っていなかったのでございます。



その一言で円座していた全員が息を呑んだ。



私も予想だにしていなかった事で、

慌てて立ち位置をずらしたり、角度を変えてみたり

色々と試みましたが、全く映りませんでした。


暫くしてお手上げの私は座りながら考えているうちに

寝入ってしまい、気づけば朝になって全て元通りに

なっておりました。


寝ぼけていたんじゃないかと思われる方も

おいででしょう。


いえ、そうではないのでございます。

実は昨晩も試してみましたが、

やはり何も映っておりませんでした。


私は丑三つ時に鏡に映らない男になって

しまったのでございます。


本日これをお話ししたのは怖かったからで

ございました。

私は既にこの世のものではなくなってしまったのではないかと


でも安心致しました。

皆様はしっかり私が見えている。


小太りの男が微笑んだ瞬間堰を切ったように

鳴き声や叫び声が入り混じり、

ついには一人の女性が叫びながら転げるように

部屋を出て行ってしまった。








「もう嫌!何なのさっきから

勝手に蝋燭がついたり誰もいない座布団から

話し声が聞こえたり!

もう耐えられない!助けてぇ!」



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