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「小説家におすすめの神社」に行ってみたら、手が異常に熱くなった話

作者: ミズアサギ
掲載日:2026/04/27

 

「そうだ、神社に行こう」


 この春はやられた。とてつもなくやられた。

 もともと春先は体調を崩しやすい。花粉に頭痛、眩暈に耳鳴り。毎年恒例の病状だ。しかし、今年はさらに追い打ちを掛けた。


「更年期症状によるやる気の消失」だ。


 これには本当に参った。

 まったく本を読みたくならない。読んでも内容が頭に入らない。ましてや書くなんて無理。無理矢理にパソコンの前に座るが、ものの数秒で横になる。横、最高。


 活字中毒の私から「読む」と「書く」を奪ったら、ただの熟女が残るだけだ。中毒症状が治癒したと前向きに考えようとしたが、やはり無理だった。生活の一部がなくなるのは想像以上に辛い。突然、楽しみがなくなったのだ。

 体力、気力、そして生きる楽しみさえ奪われた熟女は、あっという間に生きる屍となった。



 地獄のような三月、四月前半を鬱々と過ごした。今年はもう、このまま引きこもっていこう。こもっていこうぜ……空元気の毎日が辛かった。

 しかし、終わりは突然やってきた。


 あれだけ億劫だった外出が、突然したくなった。外に出たい。散歩したい。

 あれほど酷かった眩暈も、気づけば出ていない。


 今はゴールデンウィーク前。気温もまだそこまで高くない。タイミングは今だ。

 私はガバッと体を起こした。


 明日は日曜日。夕方まで天気は崩れない。もう居ても立ってもいられない。

 さて、リハビリ一発目に相応しいお出掛け先はどこだ。


 ウキウキ。

 ウキウキ? ウキウキって何ヶ月ぶりの感情だろう。

 ウキウキを堪能しながら行き先を考える。カフェ? 図書館? 美術館? 買い物?



 ――そうだ、神社に行こう。


 そもそも、私は寺社仏閣巡りに抵抗がない。

 実家の周りは神社・寺・寺・寺・寺・神社……。そんな町で生まれ育ったこともある。歩き始めると、お散歩は近くの神社。友達の家に遊びに行けば、そこが神社やお寺ということもある。なので、神社やお寺にご挨拶に伺うのは特別なことではなかった。


 私は横になると、さっそくスマホを手にした。横、最高。

 神社にお参りして人生をどうこうしてもらおう、なんて下心はそんなにない。

 長女の大学受験の際に、二礼、二拍手、一土下座をしようとした程度のライト層である。


 そこで、ふと思った。

 学問の神様がいるなら、「小説の神様」もいるのでは?

 商売繁盛、開運、芸能、縁結びからの縁切りまで神様はいらっしゃる。髪の毛やおねしょまで、神様は網羅しているのだ。


 再びガバッと体を起こし、さっそく調べてみる。



 『小説家・おすすめ・神社』


 ――あった。


 しかも、普通に複数。行ける範囲に五社以上はヒットした。

 中には、「異世界ものを書く人はここ!」という紹介まである。ピンポイント過ぎて怖い。まあ、あそこならそうだよなと妙に納得できてしまうのが、また怖い。


 なろうに投稿している身としては、行くべきだろう。

 だが、残念ながらここは超ご近所。しかも、現在進行形で別件でお世話になっている。今回は候補から外すことにした。ちなみに、そちらのご利益は引くほどすごくて怖い。


 紹介された神社は、一社を除いて訪れたことがあった。行ったことのないその神社が、とても気になる。

 よし、明日はそこに行こう……とは、すぐにはならなかった。


 そこには、説明のつかない大きな問題があったからだ。


 その問題とは「場所」。場所というか「土地」だ。

 ただでさえ観光地で人が多く、地元の人間は避けたい場所にその神社はある。それだけなら、時間を工夫すればどうにでもなる。

 本当の問題は、「私とその土地との相性」なのだ。


 大人になってから、なぜかその土地に行くのが嫌になったのだ。

 嫌というか、不穏、落ち着かない、畏怖……とにかくそんな感覚がして行きたくない。どれだけ天気が良くても、なぜがセピアがかっているように感じる。実際にセピアに見えるわけではない。感じがするだけ。


 大げさな話ではない。

 子供の頃は平気で見ていたドッキリ番組を、今はとても見ていられない……あの感覚に近い。

 私はスピリチュアルな人間ではない。嗜む程度に楽しむぐらいだ。オカルト小説は好きだが、どちらかといえば現実主義。

 それでも、「合う・合わない」という直感だけは信じるようにしている。

 だから、わざわざ行きたくないのだ。


 神社にはとても行きたい。だが、その土地には行きたくない。さて、どうしたものか……。



 その時、スマホを覗いていた長女が言った。


「私、そこ行ってみたい。マッマとデートしたい」


 長女にそんな可愛いことを言われて、断れるほど子離れはしていない。

 私の重い重い腰は、長女が軽々と蹴飛ばした。



 そして迎えた、翌朝。

 異国情緒あふれる乗客で満員の路面電車に揺られ、無事に到着。

 パシャパシャと長女の写真を撮り、お寺を巡り、いよいよお目当ての神社の鳥居をくぐる。


 ――安心した。


 結論から言うと、来てよかった。神社特有の凜とした空気がありながらも、どこか柔らかい。嫌な感じは一切しない。


「入っていいか」を気にするようになったきっかけは、以前短編にも書いたことのあるとある神社だった。

 もともと曰くのある神社だが、入ってもいいのかと戸惑ってしまう感覚。気のせいだと思って鳥居をくぐると、すぐにとんでもない頭痛に襲われた。


 慌てて「ごめんなさい」と参拝せずに引き返すと、不思議なことに頭痛は消えた。

 こんな体験は初めてだった。私は、神社にも相性があるのだと知った。



 さて。その神社では、社務所であるものを授かる。その時、こう説明された。


「それを両手に挟んでから、本殿に向かって強くお願い事をして下さいね」


 私は気が弱いので、参拝は基本に忠実。ご挨拶とお礼がメインだ。だから、そんなに直球をぶつけてもいいのかと驚いたが、せっかくなので思いっきりお願いすることにした。


 観光客は多かったが、ちょうど本殿前には人がいない。

 私は意気揚々と正面に立つ。


 二礼、二拍手、一礼……そして、授かりものを両手に挟むと目を閉じた。


 ――書いたものが賞とか獲れたらありがたい。あわよくば、出版、コミカライズからのアニメ化とかお願いします……


 溢れ出す煩悩に、自分でもドン引きした。頭の中で慌てて言い直す。


 ――嘘です、すみません。ものを書く人としての第一歩を踏み出せますように……



 あとは礼をしておしまい……のはずだった。

 礼を忘れてしまうほどの異変が起きたのだ。ペンを握る、キーボードを叩く、ページを捲る。その大事な、この手に異変が。


 熱い。


 最初は、やる気が滾って力がこもったせいだと思った。

 いける。この気持ちがあれば、多少横になっても頑張れる。

 それにしても、両手の中がとても熱い。それは、使い捨てカイロを握りしめているみたいに温度を上げる。


「?」


 違う。やる気の問題ではない。どうやら、授かりものが熱を帯びていて本当に熱いのだ。

 こわっ。私は思わず声を出した。


「あっつ!」


 離れたところにいた長女が、驚いてこちらに来る。

 私は慌てて一礼し、長女に今起こったことを話した。

 長女が私の手のひらを触る。


「え、熱い。指先は冷たいのに、なんで?」


 授かりものを二人で触る。熱くも冷たくもない常温だ。

 長女が「不思議だねー」と呑気に笑う。その笑顔を見て思い出した。

 この子は神社に行くと、たまに不思議なことに出会う。今回も、すんなりと受け入れているようだ。


 そんな長女を見て落ち着くと、今度は神様からのアンサーの意味が悩ましくなる。


「おう、任せとけ」の合図なのか。

 それとも「厚かましいわ!」の怒りなのか。


 私なんかが考えても答えは出ないが、嫌な感じはまったくしない。とりあえず、滅多に引かないおみくじを引いた。


『任せとけ』




 久しぶりのお出掛けが、思いがけず不思議で楽しい体験になった。

 せっかくなので、エッセイとして残しておこう。そう思って、今これを書いている。

 こうやって一作書けたのも、もしかするとご利益かもしれない。

 鳥肌。


 そうそう。願い事が叶ったら、お礼としてあることをしてから、もう一度神社を参拝しなければならない。いわゆる「お礼参り」だ。お礼参りは大事。

 このエッセイの続きがあるとすれば、「お礼参り編」

 その日が来ることを楽しみに、次はどこの神社に行こうかなとウキウキ。




 小説家、文筆家を祀る神社は、全国にあるようです。

 気分転換やリフレッシュ、お散歩がてらご挨拶に行ってみてはいかがでしょうか。


 そしてもし、面白い体験をされたら、その時はぜひエッセイにしてみてください。




 

 

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― 新着の感想 ―
GWに神社に行くという発想はありませんでした。 『小説家 おすすめ 神社 ○○(地名)』で検索してしまいましたわ。 そうしましたらインターネット参拝なる言葉が出てきまして。 不信心者の自分は恥ずかしな…
おお〜神様センサー敏感なんですね! 小説書くのに良い神社仏閣、作家は伝統的に弁才天(インドのサラスワティ)信仰やれって聞いたなあと思い出しました。 意外と探してみると相性良い神様いるのかも。 ……G…
読んで思わず神社に行きたくなりました。が。もう間もなくGW 。人混みが嫌すぎる。外国人観光客は早朝も早朝から活動的です。でもまあ、散歩がてらに出かけるのも良い季節。おすすめの中から行ったことのない神社…
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