1話 吸血鬼の王
「はあ、これで何回目なんだ」
目の前で倒れている人間を眺めながら俺、ルーン・デストロイは溜息を吐く。目の前で倒れているのは俺の命を狙いにわざわざ俺のところまで来た刺客だ。
人間たちの言葉では「冒険者」なんて呼ばれているらしい。
「まったく、俺が何をしたってんだか」
一般的に吸血鬼は常に血に飢えているため、人間を襲い、血を吸う。
だが、俺は違う。普通に動物を狩って血を吸う。人間って自分と見た目が似てるから何か嫌なんだよな。
だから俺が人間に襲われる筋合いってのが全くないわけだ。
「ヴァンパイア・ロードは太陽で消滅しないからね。吸血鬼の中でも特に討伐する必要性が高いのさ」
そんな時であった。ぬらりとした殺気と共に背後に気配を感じ取る。
そして次の瞬間には、俺の身体は剣によって貫かれていた。
「……いつの間に」
「あっれ~、おかしいな。ちゃんと心臓狙ったのに全然効いてないんですけど」
それはこっちの台詞である。さっき、周辺で気配のあった人間は全て殺した筈。
なのにいきなりこの男に背後を取られた上、逃げる間もなく全身に施した魔力障壁も破られ体を貫かれたのである。
一応俺は吸血鬼の中でも気配に敏感なはずなんだがな。
「残念だったな。俺は心臓を貫かれたところで死にはしない。痛いけど」
そう言うと俺は自身から噴き出た血液を魔力によって硬質化させ、逆に相手の身体を貫かんとする。
「ごめん! 殺すのは待って!」
「殺そうとしといて何言ってんだ」
構わず攻撃を続けようとすると、相手は俺の血が付着した剣を床に置き、鎧を外してその場に座る。
流石に無防備になった相手を攻撃するのもバツが悪いか。
そう思った俺は取りあえず話でも聞くかと思い、魔力を攻撃ではなく自身の治癒へと回す。
「吸血鬼の弱点が首を斬り飛ばされることは知ってるんだ。吸血鬼を討伐しに来たんだったら流石に弱点くらいは知ってるだろ? 今のは僕の有用性を知ってほしかっただけ」
「有用性?」
目の前の男を完全に信用したわけではないため、周囲に血で作った槍を漂わせたまま俺は椅子に座る。
この男が魔力を開放した瞬間に殺す準備が整っている状態で話の続きを促す。
「僕はこのパーティから酷い目に遭わされてね。無能だとか何とか言われて金を全て盗られたり、こき使われたりね。挙句の果てには縄で手足を縛られて殺されかけた。何とか生き残った僕は奴らに同じ目に遭わせてやろうと思ってデバフをかけた上で君の所に送り込んだんだ」
「じゃあ俺が襲われたのお前のせいじゃねえか。やっぱり殺した方が良いか?」
「待って待って。デバフって言ったから分かんなかったのか。僕は君がアイツらに勝てるよう、アイツらの能力を低下させる特別な力、『スキル』を使ったんだ。それが『デバフ』って言うんだよ」
俺が勝てるように能力を下げた? スキル? 聞いたことない魔法だな。
「不思議そうな顔をしているけど吸血鬼にもスキルはあるんだよ。ほら、血を自在に操って攻撃したり体を治癒したりできるだろう?」
「あれは魔法だ」
「魔力を使ってるからそう思うのかもしれないけど、吸血鬼以外はそんな事できない。そういう固有の力の事を人間は『スキル』って呼んでるんだよ」
そういうものか? まあ、人間側の常識を吸血鬼である俺が理解できるわけないか。
「僕の復讐は君がアイツらを殺したことで成し遂げられた」
「ならそのまま去ればよかっただろ。何でわざわざ俺を刺すんだよ」
「理由は単純。僕が君の眷属になりたいからさ。だから実力を示した」
「……はあ?」
「吸血鬼の眷属になれば不老不死になれるんだろう? それに君に危害を加えられないだけでそれ以外は大して不自由なく生活できるらしいじゃないか。最高だよ」
何かコイツがあの人間たちに虐げられていた理由が分かった気がする。こいつ、だいぶ変わってんだ。
だが、実のところその提案自体は俺からしても嬉しい。
吸血鬼は魔物やそれに類する者を眷属化することによって力を向上させていく。眷属の強度によって力の上り幅も変わってくる。
しかし、あくまで一方的に眷属化できるのは知性のない者だけ。知性のある者を眷属化するには互いの信頼がなければ実現しない。
知性のない魔物達はたとえどれほど能力が高くとも、最終的には知性のある存在にすぐさま討伐されてしまう。
そして今回の戦いで俺の眷属は全て倒されてしまった。眷属化の恩恵を受けて能力が向上する構造上、眷属が居なくなると吸血鬼は弱体化する。
「お前を眷属に出来るなら俺も願ったり叶ったりだ。だが俺の都合でお前の行動が制限されることもあるんだぞ? 俺は俺の都合でお前を召喚できる。つまり、敵がここに攻め込んできたらすぐさま呼び出す可能性があるって訳だ」
「そんなこと、不老不死になれさえすればどうでもいいさ。あ、でも種族が魔物になったりするのは嫌だけど」
「種族は人間のままだ。そりゃそうだろう? 眷属化はただの血の契約だからな。あと不老不死は言いすぎだ。俺と同じで首を斬り落とされれば死ぬし、俺が死んだら普通の人間に変わるから不老不死じゃなくなる」
「うんうん、聞いてるだけで良いこと尽くしじゃないか。どうだい? 僕を眷属にしてくれないか?」
男が目を輝かせてこちらを見てくる。こっちからしても良いこと尽くしではあるんだけど、どうも掴みどころがなくて信用できないんだよな。
条件が良すぎて逆に怪しいっていうか。眷属にするための儀式に互いの信頼が必要な理由は、俺がその間、完全な無防備になるからってのがある。
だけど人間を眷属にできる状況なんてここで逃せば、二度とないだろう。
こんな変な奴が何人も居たら世界は崩壊する。
「それに僕は不老不死で居続けたいから、君には死んでほしくない。そのために君が良質な眷属を従えられるようになる方法も教えられる」
良質な眷属を従えられるようになる? よし、この話を聞いてから判断するか。
「その方法を教えろ。それが良さそうだったら眷属にする」
俺が促すと目の前の男はその方法とやらをベラベラとしゃべり始める。
そうしてその話を聞き終わった後、俺は一呼吸置いてからこう告げる。
「分かった。お前を眷属にする」
♢
「ルーン、この冒険者パーティなんて良さそうだよ」
「ほうほう。それで? 俺がこのパーティに入れば良いってことか、デュラン?」
デュランとは先日、俺が眷属にしたあの冒険者の男だ。
そして今話し合っているのはデュランが提案してきたいわば『大眷属化作戦』の内容についてである。
「そうそう。ここのパーティのリーダーがかなり横柄らしくてね。実行するにはうってつけさ」
デュランが提案してきた作戦はこうだ。
「冒険者」とやらは基本的にパーティという部隊を組み、行動するらしい。
そして人間の実力者はほとんど冒険者になるとのこと。
つまり、この冒険者達を眷属にできれば俺の「良質な眷属を手に入れる」っていう目的が達成されるのだとか。
「この作戦の肝はいかにこのリーダーを操って『有望な人材をパーティから追い出すか』にある。だからリーダーの質が悪ければ悪い程、成功率が上がるって訳さ。質が悪くないと有望な人材を追い出すなんて馬鹿な事、けしかけられてもしないからね」
「なるほどな。だがパーティから追い出しちまったらその有望な人材とやらと信頼関係を築けなくないか?」
ましてや俺がリーダーに働きかけて追い出すのだとしたら余計に敵視される気がするんだけど。
「築けるさ。追い出されたそいつをルーンが世話すればいいだけ。それだけで簡単に信頼関係は築ける」
「根拠は?」
「僕の経験さ」
苦虫を噛み潰すかのような顔をしながらデュランはそう告げる。
こいつは以前殺した冒険者パーティで散々な目に遭わされたらしい。要はそういう目に遭った後、手を差し伸べれば簡単に眷属化するくらいの信頼関係は築けるとのこと。
……あれ? やってることめちゃくちゃ最低じゃないか? 俺が居なかったらそいつもそんな事にはならなかっただろうし。
それにその事知ったら、仮に眷属にした後でも、信頼関係が崩れちまって俺が受け取る恩恵が弱くなってしまう。
「あ、安心して。僕が選んできたパーティは既にそういう目に遭ってる有望な人材が居るとこだけだから。君はリーダーもしくは有望な人材の背中を後押しすればいいだけさ」
「なら良かった」
「うんうん。じゃああとは……」
それからデュランから色々とそのパーティの情報を聞き、頭に叩き込んでいくのであった。
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