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終章 精霊視点
ーー数年後
即位の日、王都の魔力は静かに満ちていた。
歓声は高く、祈りは多い。
だが、城の中心にある空気は、不思議なほど澄んでいる。
――この国は、揺れていない。
我は高みから、それを見下ろしていた。
新たな王は、玉座に立つ。
その隣には、王妃がいる。
血筋も、契約も、国にとって正しい選択だ。
そして、少し離れた位置。
結界紋章の刻まれた外套を纏い、
一人の女が立っている。
かつて令嬢と呼ばれた者。
今は、王国結界の責任者。
彼女は王を見ない。
王も、彼女を見ない。
それでも。
王が右手を上げる、その瞬間。
彼女が結界術式に魔力を流す、その拍子。
二つの動きは、寸分違わず重なった。
(……ああ)
我は理解する。
この二人は、
同じ未来を見ている。
同じ国を選んだ。
交わらなかった感情は、
消えたのではない。
形を変え、役割に溶けただけだ。
⸻
精霊は、恋を祝福しない。
だが、覚悟は尊ぶ。
この国を支える礎として、
これ以上に安定した関係はない。
我は、結界の光をわずかに強めた。
それは奇跡ではなく、ただの確認。
――この国は、強い。
王は王として立ち、
彼女は彼女の場所にいる。
二人は並び、
しかし、触れない。
その距離こそが、
この国を、未来へ運ぶ。




