第8話 精霊視点
人の城は、いつも忙しない。
言葉が多く、沈黙が少ない。
それでも今日の回廊には、
珍しく、澄んだ間が残っていた。
――二つの心が、同じ選択をした後の空気。
我は、結界を司る精霊。
王と契約し、王国の境を守る者。
だから分かる。
嘘をつく魔力と、
押し殺した感情の魔力の違いくらいは。
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先に去ったのは、王になる者。
歩みは迷わず、だが背には重さがあった。
後に残ったのは、選ばせなかった者。
彼女の魔力は、静かで、揺れがない。
(……良い選択だ)
我は、そう判断した。
恋に溺れる心は甘く、
精霊にとっては扱いやすい。
だが、国を守る結界に、甘さは毒になる。
あの二人は、甘さを持ったまま、
それを使わなかった。
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人はよく問う。
「正しい選択だったのか」と。
だが、我ら精霊にとって重要なのは、
正しさではない。
揺らがぬかどうかだ。
彼女の覚悟は、結界の礎として十分に強い。
彼の沈黙は、王の器として十分に深い。
二つの感情が交わらなかったことで、
国は今日も保たれた。
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それでも。
我は知っている。
抑えた感情は、消えはしない。
夜になれば、城の魔力は少しだけ緩む。
その時、二人の想いは、
結界の内側で、微かに共鳴するだろう。
だが、それでいい。
交わらぬ想いがあるからこそ、
守られる未来もある。
⸻
我は、精霊灯の光をわずかに強めた。
それは祝福ではない。
ただの、承認だ。
この選択は、国を壊さない。
それだけで、十分だった。




