第7話 国王視点
玉座の間に戻ると、まだ精霊灯の残光が漂っていた。
会議は終わったが、空気は完全には戻っていない。
――あの二人だな。
私は、書状に目を落としたまま、考える。
王太子。
そして、貴族の令嬢。
どちらも、己の立場を理解している。
だからこそ、余計な言葉を交わさない。
(若い頃の私より、よほど賢い)
そう思い、口の端がわずかに緩んだ。
⸻
王になるとは、選び続けることだ。
だが、選べないものを先に切り捨てるのが、
本当の意味での王の仕事でもある。
あの令嬢は、それを知っている。
息子が彼女を見た時の、あの一瞬の間。
そして、彼女が最後まで名を呼ばなかったこと。
(……なるほど)
あれは偶然ではない。
互いに、踏み込まないと決めている。
⸻
私は、ふと視線を上げた。
精霊契約の文書の端で、微かな魔力が揺れている。
精霊は嘘を嫌う。
あの場で、拒絶も、誓いもなかったのは――
二人とも、自分を偽っていなかったからだ。
(国にとって、最も厄介で、最も都合のいい関係だ)
恋はある。
だが、利用されない。
それは、王国にとっては安定だ。
⸻
私は、書状に署名をし、静かに言った。
「……急ぐ必要はない」
誰に向けた言葉でもない。
だが、それで十分だった。
あの二人は、もう分かっている。
時間が、何かを解決するわけではないことも。
それでも、王として一つだけ思う。
(願わくば)
願いは、口にしない。
王が願いを言葉にする時、それは命令になる。
だから私は、ただ仕事を続ける。
国が揺らがぬように。
若い二人が、己の選択に押し潰されぬように。
玉座の間に、精霊灯の光が静かに満ちていった。




