第99話:核主顕現 律の姿
光が――静かに収束していく。
轟音も閃光もなく、
ただ“存在そのもの”が形を決めていくように。
白銀の世界が、ゆっくりと沈殿し、
輪郭が生まれる。
大地色の線が集まり、
筋肉のように──
骨のように──
山脈そのものを模した“体躯”が積み上がる。
(……形になる)
アランは息を飲む。
立ち上がったそれは、
巨人でも魔獣でもない。
ただ、“在りたい”と願った律が
自らを 山 と定めるために選んだ姿。
白銀と大地の層が積層し、
中心部に、脈動する光の結晶が浮かぶ。
――核。
(これが……この山の、主)
形なき声がすべり込んでくる。
――“応えよ”
アランの胸が、微かに震えた。
“認めよう”と告げた核主が、
次の段階を静かに差し出している。
(ここからが、本番だ)
アランは槍へ視線を落とす。
白銀の刃は、まだ床に置かれたまま。
手に戻る気配は──ない。
(選ばれるのは、俺の手だ)
槍は導き、破り、斬ってきた。
だが今、試されているのは。
武器ではなく、 意思。
アランは一歩──踏み出す。
白銀の地面が波打ち、
その足を受け止め、道を開く。
核主の胸元に浮かぶ光が、
淡く明滅する。
――“名とは、関係だ”
ひとつの概念が、胸に流れ込んだ。
(名は……誰かに呼ばれ、触れられて、
そこで初めて“意味”になる)
リリアの声。
仲間の声。
アランと呼ばれた時間。
胸が熱くなる。
(俺は……俺だけじゃなかった)
核主の脈動が強まる。
――“ならば示せ
お前が“関わる者”である証を”
アランは手を伸ばす。
指先が、核の光へ触れかけた──
瞬間。
風が走った。
白銀ではない。
世界そのものの“息”。
アランの手を止めるような、
あるいは促すような、曖昧な風。
(これは……迷い?)
核主が問いかける。
――“触れるとは
相手を変えることではない
自分が変わる覚悟でもある”
胸が鳴る。
アランは、自分の手を見た。
(触れたら、俺は──
もう戻れない)
この山が変わるだけじゃない。
自分の在り方も変わる。
(それでも──)
手が動く。
迷いを越えたわけじゃない。
恐怖が消えたわけでもない。
ただ、
(それでも俺は、“在りたい”と答えた)
触れた。
指が、核の光に沈み込む。
音のない衝撃。
白銀の世界が震え、
核主の姿が淡く揺れる。
そして。
――“受理する”
静かな宣言。
それは勝利でも敗北でもない。
契約。
白銀の律が、アランの手に絡みつき──
胸へと吸い込まれていく。
熱さではなく、
冷たさでもなく。
ただ、“確かさ”。
アランの心臓が打つ。
ドクン。
共鳴が始まる。
(……俺は、変わる)
視界の端で、槍が微かに浮いた。
白銀の刃は、もはや武器ではない。
媒介であり──証。
核主が、最後の問いを投げる。
――“名は、変わるか”
アランは答えた。
「変わらない。
でも、意味は変わる」
沈黙。
そして。
核主の姿が、完全に定まった。
山脈のような巨体が
ゆっくりと膝を折り──
“地に額を寄せる”。
それは、降伏ではなく。
――認定。
アランは、ゆっくり両手を下ろし──
槍へと手を伸ばす。
触れた指に、
白銀の律が静かに宿った。
(次は……俺が、答える番だ)
光が揺れる。
山核主は、頭を上げない。
それは、問いの猶予。
アランが何を選ぶかを、
まだ──待っている。




