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第97話:静圧の門 内界へ

踏み出した瞬間、

世界が変わった。


地面は白銀の岩。

けれど、もう固体ではなかった。


足裏は沈む。

水ではない。

魔力でもない。


――“律の濃度そのもの”。


「……ここが」


アランは呟く。

声は響かない。

ただ、自分の胸の内へ戻ってくる。


(山の……心臓部)


背後を振り返る。


ダリオ、レオンハルト、リリア。

三人は外側に留まっていた。


境界線は、一歩分。


たった一歩。

だが、それは別世界。


リリアの声が届く。


「アラン!」


声は、境界を越えた途端――色を失った。


意味だけが届く。

音ではなく、概念として。


『アラン、戻れる道は……?』


アランは小さく息を吐いた。


「分からない。

でも……行く」


その言葉は、もう伝わらなかった。


境界が閉じた。


前へ進む。


世界は、静かに脈動していた。


ドクン。

ドクン。


それは音ではない。

皮膚の内側に叩き込まれる“感覚”。


(山核主……意思がある)


形はまだ視えない。

だが、確かに“意志”が満ちている。


やがて――

周囲が揺れた。


白銀の壁が、波のようにたわむ。


そして、生まれ始める。


輪郭。

影。

形。


巨大な“眼”だった。


岩でも、魔力でもない。

ただただ――認識。


(見られている)


アランは立ち止まらない。


恐怖はある。

でも、それは敵意ではない。


問いだ。


――“お前は、何者だ”。


槍が、手の中で微かに震える。


だが先ほどまでの拒絶は消えていた。


(まだ……認められていない)


(でも、排除もされていない)


もう一歩。


白銀の床が、脈動とともに“階段”になる。


生きた構造体が、アランを導く。


『触れろ』


声ではない。

律そのものの響き。


アランは槍を握る。


刺さない。

突かない。


ただ、そっと――当てる。


瞬間。


世界が、開いた。


白銀の空洞は、

一瞬で“記憶の海”へと変貌した。


色が生まれる。


赤。

黒。

茶。

土の色。


――山脈が、まだ“山”ではなかった頃。


視界に流れ込む。


降り注ぐ雨。

削れる大地。

生まれては失われる“核”。


(……山核)


魔力の流れが乱暴だった。

律を持たぬ世界は、定まらず、どこにも還れず――


そして。


“恐怖”が走る。


それは言葉ではない。

ただ、深く刺さる。


――壊される恐怖。


――奪われる恐怖。


――在ることを許されない恐怖。


アランの視界が揺れる。


(……これが)


(この山が、固定し、閉じ、拒み、選ぼうとした理由)


「……守ろうとしたんだな」


声は、記憶には届かない。

だが、自分の中には届いた。


(壊されることに怯えながら)


(それでも、“在る”ために)


アランは槍を胸元に引き寄せた。


(なら……俺は)


(破壊じゃない)


(肯定を持って、触れに行く)


白銀の世界が震動する。


山核主が、次の問いを投げかけてくる。


――“お前は、在ることを望むか”


槍が微かに光る。


(俺は……在りたい)


(魔装槍も、俺自身も)


(ただ壊す存在じゃなく)


(触れ、関わり、選べる者でありたい)


その答えが、

世界へ触れる。


白銀の空洞が、ほんの少しだけ――明るくなった。


外界。


リリアが息を呑む。


「……光、変わった」


ダリオが短く言う。


「アランが、まだ生きている」


レオンハルトは、無言で前を見つめた。


「そして……交渉は続いてる」


内界。


アランは歩みを止めない。


世界の中心へ。


山核主の“心臓”へ。


そこには――

まだ“答え”がない。


だからこそ、進む。


(俺が、触れて決める)


(山が――この地が)


(何者として在るべきか)


槍の震えが止まった。


代わりに、

淡い共鳴が胸の奥に生まれる。


静かな声にならない声が、確かに響く。


――“来い”


アランは、白銀の奥へ踏み込んだ。


そしてついに――

“核”が姿を現そうとしていた。


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