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第96話:踏み込む者 調律戦開始

最初の一歩は、驚くほど静かだった。


爆音も、振動もない。

ただ――山が、応えた。


グラシア山脈・山頂核域。


白銀の岩盤に足を踏み入れた瞬間、

空間そのものが“閉じた”。


外界の風が消え、

音が削ぎ落とされ、

世界は核の内側になる。


「……入ったな」


ダリオが短く言う。


声は届く。

だが反響しない。


この場所が、すでに

一つの存在として完結している証だった。


リリアが即座に結界を張る。


「テンペスト・フィールド、最低出力。

遮断じゃない、緩衝よ」


風が薄く巡る。

だが、山の律を押し返そうとはしない。


「……来る」


アランが言った。


その直後だった。


白銀の岩盤が、脈打つ。


ドクン。

ドクン。


鼓動。


山全体が、心臓を持ったかのように。


「核域、完全覚醒……!」


リリアの声が硬くなる。


「主が……起きる!」


岩盤が割れた。


否――

割れたのではない。


開いた。


中心部から現れたのは、

巨大な“構造体”。


山そのものを縮めたような輪郭。

人型でも、獣型でもない。


だが、確かに“こちらを見ている”。


――山核主さんかくしゅ


視線が、アランに定まった。


瞬間。


白銀の槍が、拒絶した。


激しくではない。

だが、明確に。


(……やっぱりだ)


アランは、槍を構えない。


代わりに、

一歩、前に出る。


「俺は、壊しに来たんじゃない」


言葉は、声にならなかった。

だが、確かに“伝わった”。


山核主が、動く。


腕に相当する岩塊が振り下ろされる。


ドォン――!!


「後衛、耐えろ!!」


ダリオが雷のシールドを展開する。


雷は攻撃しない。

ただ、岩の流れを“ずらす”。


レオンハルトが地形固定を重ねる。


「崩落抑制、展開!」


リリアが叫ぶ。


「アラン!

“触れる”なら、今しかない!!」


アランは、魔装槍を握り直した。


力を込めない。

魔力も流さない。


ただ――

核片を、槍の穂先に当てる。


その瞬間。


白銀の槍が、拒絶をやめた。


完全な共鳴ではない。


だが――

“受け入れ”が始まる。


山核主の動きが、止まる。


初めて。


「……通じた」


レオンハルトが息を呑む。


アランは、叫ばない。


突きもしない。


ただ、槍を“差し出す”。


(壊さない)


(奪わない)


(――合わせる)


山核主の内部で、

律が激しくぶつかり合う。


安定しすぎた構造。

閉じきった循環。


それが、

外部との接点を得ようとしている。


だが――


ドクンッ!!!


拒絶が、再燃する。


山核主が、全域へ圧を放った。


「っ……!!」


膝をつく者が出る。


リリアが歯を食いしばる。


「だめ……!

調律、拒否されてる!!」


アランは理解する。


(当然だ)


(こいつにとって

俺たちは“外”だ)


魔装槍が、震える。


まだ足りない。


(……選択が)


(覚悟が)


アランは、はっきりと言った。


「ダリオ」

「レオンハルト」

「リリア」


全員が、顔を上げる。


「俺は、中心に行く。

戻れないかもしれない」


ダリオは即答した。


「なら、道を作る」


レオンハルトが杖を構える。


「固定と遮断、全力で支える」


リリアは、迷わなかった。


「調律補助、やるわ。

壊れたら……一緒に壊れる」


アランは、笑った。


「十分だ」


次の瞬間。


山核主が、完全に動き出す。


破壊でも、殲滅でもない。


“在り方”を巡る戦い。


白銀の山頂で――

人と山の、最後の交渉が始まった。


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