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第94話:新たなる選択

山頂直下の空洞を後にし、

小隊はほんの数十歩、一段低い岩棚へと位置を移した。


退却ではない。

陣形を組み直すための間合い調整だ。


しばしの沈黙。


それを破ったのは、レオンハルトだった。


「……不思議だな。

敵意は感じないのに……

さっきの空洞、背中が冷えるほど“見られてる”感じがした」


「圧、というより……」


リリアが言葉を選ぶ。


「“存在感”ね。

あそこは、もう環境じゃない。

一つの意思に、かなり近い」


ダリオが腕を組み、低く息を吐く。


「意思、か。

なら尚更だな」


視線を、山頂方向へ向ける。


「剣も術も、向けどころを誤れば――

拒まれる」


「……ええ」


アランが静かに続けた。


全員の視線が、彼に集まる。


「さっき、はっきり分かった。

魔装槍は万能じゃない」


槍は地面に突き立てられている。

今は、微動だにしていない。


「歪んだ律には、“壊す”ことで介入できる。

白霜峡も、紅砂帯も、そうだった」


「でも、あそこは違う」


リリアが頷く。


「完成しようとしている律。

暴走じゃない。失敗でもない」


「だから――」


「壊すか守るか、じゃない。

“どう在るか”に、直接触れなきゃならないのよ」


アランは、ゆっくりと息を吐いた。


「……俺一人じゃ、足りない」


レオンハルトが顔を上げる。


「どういう意味だ?」


「俺は触れられる。

でも、方向を決められない」


アランは視線を上げ、

再び、山頂の裂け目を見据えた。


「この山が、何になろうとしているのか、

それを理解しないままじゃ――

槍は、最後まで拒む」


短い沈黙。


やがて、リリアが小さく笑った。


「……ねえ、ダリオ」


「なんだ」


「これ、もう単純な“討伐”じゃないわよね」


「ああ」


ダリオは即答した。


「だが、任務は変わらん」


一拍置いて、言葉を選ぶ。


「放置はできない。

定着すれば、被害は確実に出る」


レオンハルトが、ゆっくりと言った。


「つまり……

話を聞いた上で――

それでも止める必要があるなら、止める」


「そうだ」


アランが頷く。


「“関係を結ぶ”か、

“断ち切る”か、

選ぶのは、これからだ」


その瞬間。


風が一度だけ、岩棚を撫でていった。


冷たくも、荒くもない。

確かめるような、短い風。


アランは魔装槍を手に取る。


拒絶の震えはない。

完全な共鳴でもない。


だが――

“急ぐな。だが、引くな”

そんな感触だけが、はっきりと伝わっていた。


「……行くぞ」


アランは言った。


「今度は、迷いを持ったまま、

それでも、踏み込む」


リリアが静かに頷く。


「聞く覚悟を持って、ね」


「そして――」


ダリオが締める。


「必要なら、討つ」


小隊は再び、山頂へ向き直った。


白銀の岩壁は、まだ沈黙している。


だがその沈黙は――

拒絶ではない。


選択を、待っている。


魔装槍は、

その選択に耐えられるかを確かめるように、

静かに光を宿していた。


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