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第92話:無風の頂、山が息を止める

一歩、踏み出した瞬間だった。


――風が、完全に消えた。


グラシア山脈・山頂直下。

雪も、砂塵も、音さえも止まり、

世界が“貼りついた”ような静けさに包まれる。


「……無風?」


レオンハルトが小さく呟く。


「いや……」

リリアが顔を強張らせる。

「違うわ。止められてる」


アランは、はっきりと感じていた。


(空気が……動こうとしてない)


押し返されているのではない。

遮断されているわけでもない。


――許可されていない。


白銀の槍が、微かに震える。

だが、いつもの“導き”はない。


(……初めてだ)


ここまで来て、

槍が「進め」とも「止まれ」とも言わない。


ダリオが低く声を落とす。


「隊列を詰める」

「不用意に魔力を流すな」


全員が頷く。


そのとき――

足元の岩が、音もなく“沈んだ”。


ズ……ッ


ほんの数センチ。

だが、確実に。


「今の……!」


リリアが魔道具を構える。


「地盤が沈降してる」

「でも崩落じゃない……呼吸よ」


「山が……息をしてるってのか?」

レオンハルトが冗談めかして言いかけ、口を閉じた。


笑えない。


アランは、槍を地面に当てる。


――触れた瞬間。


ドクン。


確かに、“脈”を打った。


(……山そのものが、律を持ってる)


その理解が、

胸の奥に重く沈む。


「……ダンジョン化してない」


リリアが言う。


「でも、してないわけでもない」

「これは――前段階」


「じゃあ、敵はどこだ」

ダリオが問う。


答えは、誰も口にしなかった。


その代わり――

山頂方向の岩肌に、線が浮かび上がった。


細く、淡い白光。


まるで巨大な魔法陣の“縁”のように。


レオンハルトが息を呑む。


「……嘘だろ」

「山が……術式を構成してる……?」


リリアは首を横に振る。


「術式じゃない」

「律の定着よ」


「この山は――」

アランが、静かに続ける。


「魔獣を生んでるんじゃない」

「自分が、核になろうとしてる」


その言葉に、沈黙が落ちた。


白銀の槍が、ここで初めて――

かすかに、拒むように震えた。


(……通じない?)


アランの背筋を、冷たいものが走る。


(初めて……“入るな”って、言われてる)


リリアが気づく。


「アラン……?」

「その槍……」


「……ああ」

アランは、正直に言った。


「ここから先、俺だけじゃダメだ」


ダリオが即座に決断する。


「全員で行く」

「引き返さない」


山が、再び脈動した。


ドクン……

ドクン……


その鼓動に合わせるように、

山頂の岩肌が、ゆっくりと“割れ始める”。


中から覗くのは――

光でも、闇でもない。


“定着しきった律の空洞”。


リリアが息を詰める。


「……来る」

「次は……あるじよ」


アランは、槍を握り直した。


拒まれている。

だが――


(それでも、行く)


(俺たちは、“触れる”ために来たんだ)


静止していた世界が、

ほんの一瞬だけ――動いた。


そして。


山が、目を開く。


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