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第90話:高度限界 魔法が届かない場所

グラシア山脈・高度帯。


空気が薄く、冷たい。


一歩進むたびに、肺の奥がきしむようだった。


「……高度、想定より高い」


リリアが短く呟く。


魔導具の表示が、静かに警告色へ変わっていた。


「魔力密度が落ちてる。

 術式の展開速度、通常の六割以下……」


レオンハルトが歯噛みする。


「この高さで陣を張れないのか……」


ダリオは前に立ち、即座にシールドを展開した。


半透明の障壁が、小隊を包む。


だが――


ビリッ、と嫌な音がした。


「……っ!」


ダリオが眉をひそめる。


「魔力が抜ける。

 地脈が、ここでは“逃げてる”」


その瞬間だった。


ゴゴ……ッ。


山肌の奥から、低い振動音が響く。


岩が、ずれる。


「来るわ……!」


リリアが叫ぶ。


次の瞬間、岩壁が内側から破れた。


現れたのは――

岩殻獣とは似て非なる存在。


山の一部を削り出したような、

細長い胴体。


脚は六本。

背中に走る亀裂から、淡い光が漏れている。


――断層獣だんそうじゅう


「また……魔獣!?」


レオンハルトが即座に詠唱に入る。


「《レイジング・ロック》――!」


魔法陣が展開される。

だが――


ブツッ。


陣が、途中で“途切れた”。


「なっ……!?」


「高度干渉!」

リリアが即座に分析する。


「魔力供給が間に合ってない!

 術式が完成しない――!」


断層獣が地面を踏み鳴らした。


ドンッ!!


衝撃波が走る。


ダリオのシールドが大きく揺らぐ。


「ぐっ……!」


(まずい……!

 このままじゃ、防御が先に限界だ!)


そのとき――


「……俺が前に出る」


短く、迷いのない声。


アランだった。


「正気か!」

レオンハルトが叫ぶ。


「魔法も張れない場所で、

 一人前に出るなんて――!」


リリアが、はっきりと言った。


「でも、アランは――

 もう“魔法が届かない場所”で戦ってる」


アランは槍を構え、深く息を吸う。


(この高さ……

 術式は崩れる)


(でも――

 この槍は、まだ“繋がってる”)


白銀の槍が、かすかに脈動した。


断層獣が吠え、突進してくる。


アランは地面を蹴った。


「《ルミナエッジ》」


光は、派手には広がらない。


刃先だけが、静かに輝く。


――それで、十分だった。


ズンッ。


槍が断層獣の胴体に触れた瞬間、

岩の“内側”に亀裂が走る。


「……!?」


レオンハルトの息が止まる。


(まただ……

 外殻じゃない……

 “中”に届いてる)


断層獣が苦悶のような振動音を発し、

体勢を崩した。


リリアが叫ぶ。


「今よ!

 《テンペスト・フィールド――拘束展開!!》」


魔法陣が瞬時に広がり、

突風が渦を巻いて断層獣を包み込む。


圧縮された風圧が四方から叩きつけられ、

獣の脚が地面に縫い止められた。


アランは一歩踏み込み、槍を突き立てた。


「……ここだ」


白銀の光が、静かに走る。


バキン――!


断層獣の胴体が崩れ、

岩の塊となって崩落した。


静寂。


山風だけが、吹き抜ける。


レオンハルトは、しばらく黙っていた。


やがて、ぽつりと呟く。


「……術式は、環境に縛られる」


誰に向けた言葉でもなかった。


「だが、君の槍は――

 環境に“触れて”る」


アランは振り返らない。


「たぶん……

 正しいとか、間違いじゃない」


槍を握り直す。


「届かない場所があるなら、

 届くやり方を探すだけだ」


リリアが小さく笑った。


「それ、

 いちばん魔導士らしい発想よ」


ダリオが前を見据える。


「進むぞ。

 この上――

 反応は、まだ続いている」


白銀の槍が、再び震えた。


グラシア山脈のさらに高所。


そこはもう、

魔法が“前提”として通じない領域。


そして――

アランの役割が、

より明確になる場所だった。


次の異変は、

この山の“心臓部”で待っている。


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