第9話:成果の報告と、隠された真実
ダンジョンを出ると、セルジオがすぐに駆け寄ってきて肩を支えてくれた。
「坊ちゃま……! 本当にご無事でなによりです」
「……なんとか、な」
俺は苦笑しながら答える。
槍を杖代わりにして歩く足はまだ震えているが、不思議と胸の奥には充実感があった。
道すがら、セルジオは俺の装備をちらりと見やった。
「そのローブと槍……隠し部屋を見つけられたのですな?」
「ああ、偶然だけどな。……まさか本当にあるとは」
俺は肩をすくめるが、セルジオの目はわずかに細まり、何かを確信したような表情を浮かべていた。
「やはり……光に導かれているのかもしれませんな」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、独り言です」
謁見の間。
玉座に腰かける父、その脇に居並ぶ兄姉たち。
俺はセルジオに伴われて進み出ると、重い沈黙のなかでひざまずいた。
「――初級ダンジョン三層、攻略。報告いたします」
声が少し震えたが、必死に押し殺す。
背後でセルジオが進み出て、戦果を示すように木箱を差し出した。
箱の中には、緑の宝石と銀貨数枚。
さらに――深緑色の魔導士ローブ、金属の穂先、そして短い棒が三本。
父が目を細める。
「……これは?」
セルジオが一礼しながら説明した。
「魔導士のローブは、魔力の循環を助ける古代遺物かと。それと、この三本の金属棒は“魔力の導管”、あるいは杖の柄――杖の持ち手部分かと推測されます」
(なるほど……槍にも杖にもなるってわけか!)
「ふん、柄だと? 見たところ、ただの金属棒だがな」
長兄が鼻で笑う。
さらに姉が、金属の穂先を指さした。
「……この形状、武器ではなくて? 貴族が槍を持つとは滑稽ね」
一瞬、背筋に冷や汗が流れた。
だがセルジオがすかさず言葉を継ぐ。
「いえ、宝箱を開封する際に必要な“鍵”として使用したものでございます。
武器としては不十分にて……魔導士用の記録に残すのが適切かと」
(……セルジオ、ナイスフォロー!)
父はしばらく黙していたが、やがて冷淡に言い放った。
「……よかろう。戦果そのものは最低限認めよう。だが、他の者たちは初陣にして己の魔力を示し、その証として高位の魔導具や魔石を持ち帰った。
お前が得たのは――ローブ一着と、用途の知れぬ金属片に過ぎん」
兄姉たちの口元に、嘲るような笑みが浮かぶ。
「結局、凡庸ってことね」
「隠し部屋に救われただけだろう」
鋭い言葉が突き刺さり、胸がずしりと重くなる。
それでもセルジオは、深く頭を垂れたまま穏やかに告げる。
「されど、魔導士のローブを得られたことは紛れもなく成果でございます。当家にとっても有用かと」
父は鼻で笑い、手をひらりと振った。
「ふん……せいぜいローブに恥じぬ働きを見せてみるがよい」
冷たい声が謁見の間に響き渡り、俺は唇を噛みしめながら頭を下げた。
(……いいさ。槍だろうがローブだろうが、生き残る力に変えてみせる。今に見てろよ――)
父や兄姉は知らない。
あの穂先と棒三本を組み合わせれば――自在に長さを変えられる“組み立て式槍”になることを。
魔導士のローブも、ただの衣ではなく、纏った瞬間に魔力の流れをすっと整えてくれることを。
(これは……俺だけの秘密兵器だ)
胸の奥でひっそりと拳を握りしめながら、俺は玉座を後にした。




