表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/33

第9話:成果の報告と、隠された真実

ダンジョンを出ると、セルジオがすぐに駆け寄ってきて肩を支えてくれた。

「坊ちゃま……! 本当にご無事でなによりです」


「……なんとか、な」

俺は苦笑しながら答える。

槍を杖代わりにして歩く足はまだ震えているが、不思議と胸の奥には充実感があった。


道すがら、セルジオは俺の装備をちらりと見やった。

「そのローブと槍……隠し部屋を見つけられたのですな?」


「ああ、偶然だけどな。……まさか本当にあるとは」

俺は肩をすくめるが、セルジオの目はわずかに細まり、何かを確信したような表情を浮かべていた。

「やはり……光に導かれているのかもしれませんな」


「ん? 何か言ったか?」

「いえ、独り言です」


謁見の間。

玉座に腰かける父、その脇に居並ぶ兄姉たち。

俺はセルジオに伴われて進み出ると、重い沈黙のなかでひざまずいた。


「――初級ダンジョン三層、攻略。報告いたします」


声が少し震えたが、必死に押し殺す。

背後でセルジオが進み出て、戦果を示すように木箱を差し出した。


箱の中には、緑の宝石と銀貨数枚。

さらに――深緑色の魔導士ローブ、金属の穂先、そして短い棒が三本。


父が目を細める。

「……これは?」


セルジオが一礼しながら説明した。

「魔導士のローブは、魔力の循環を助ける古代遺物かと。それと、この三本の金属棒は“魔力の導管”、あるいは杖の柄――杖の持ち手部分かと推測されます」


(なるほど……槍にも杖にもなるってわけか!)


「ふん、柄だと? 見たところ、ただの金属棒だがな」

長兄が鼻で笑う。


さらに姉が、金属の穂先を指さした。

「……この形状、武器ではなくて? 貴族が槍を持つとは滑稽ね」


一瞬、背筋に冷や汗が流れた。

だがセルジオがすかさず言葉を継ぐ。

「いえ、宝箱を開封する際に必要な“鍵”として使用したものでございます。

 武器としては不十分にて……魔導士用の記録に残すのが適切かと」


(……セルジオ、ナイスフォロー!)


父はしばらく黙していたが、やがて冷淡に言い放った。

「……よかろう。戦果そのものは最低限認めよう。だが、他の者たちは初陣にして己の魔力を示し、その証として高位の魔導具や魔石を持ち帰った。

 お前が得たのは――ローブ一着と、用途の知れぬ金属片に過ぎん」


兄姉たちの口元に、嘲るような笑みが浮かぶ。

「結局、凡庸ってことね」

「隠し部屋に救われただけだろう」


鋭い言葉が突き刺さり、胸がずしりと重くなる。

それでもセルジオは、深く頭を垂れたまま穏やかに告げる。

「されど、魔導士のローブを得られたことは紛れもなく成果でございます。当家にとっても有用かと」


父は鼻で笑い、手をひらりと振った。

「ふん……せいぜいローブに恥じぬ働きを見せてみるがよい」


冷たい声が謁見の間に響き渡り、俺は唇を噛みしめながら頭を下げた。


(……いいさ。槍だろうがローブだろうが、生き残る力に変えてみせる。今に見てろよ――)


父や兄姉は知らない。

あの穂先と棒三本を組み合わせれば――自在に長さを変えられる“組み立て式槍”になることを。

魔導士のローブも、ただの衣ではなく、纏った瞬間に魔力の流れをすっと整えてくれることを。


(これは……俺だけの秘密兵器だ)


胸の奥でひっそりと拳を握りしめながら、俺は玉座を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ