第85話:律を貫く光 核主、崩落
紅砂帯の中心で、
二つの戦場が――完全に重なった。
副核の動きが、止まる。
リリアの《テンペスト・フィールド》によって
“逆位相固定”された魔力が、赤核の脈動を縛りつけていた。
「……捕まえた。」
リリアは歯を食いしばり、杖を支えに踏みとどまる。
(長くは持たない……!
でも、アランなら――)
その瞬間。
核主が、
全身を震わせて咆哮した。
ズオオオオオォォォ――!!
残る二つの核が同時に輝き、
砂漠の魔力が一斉に引き寄せられる。
「来る……ッ!!」
アランは槍を握り直した。
橙、白金、そして――
その奥に、静かな光が灯る。
(焼かれない。
凍らせない。
壊すんじゃない――)
(“通す”。)
核主の中央で、
主核がむき出しになる。
赤く、重く、
世界の律を歪める心臓。
アランは深く息を吸い、
地を蹴った。
「――《ホーリードライブ》!」
光が身体を包み、
砂を砕き、距離を消し飛ばす。
核主の巨体が、
迎撃するように前脚を振り下ろす。
だが――
アランは止まらない。
「《ルーメン》……!」
光を撃たない。
纏わせるだけ。
槍芯に、純粋な光の流れを通す。
次の瞬間。
槍が――応えた。
白金でも橙でもない、
澄んだ淡金色が走る。
アランは、理解した。
(これが……
魔装槍の本質――)
(“相手の律を否定しない”。
ただ――貫く。)
核主の主核が、目の前に迫る。
アランは、迷わなかった。
「――行くぞ!!」
槍を、一直線に突き出す。
「《ルミナエッジ――
貫律》!!」
淡金の光が、
核主の主核を――
音もなく、貫いた。
……一拍。
ズ……ッ。
次の瞬間――
ズガァァァァァンッ!!!
爆発ではない。
崩壊でもない。
“解放”だった。
主核から溢れた赤光が、
砂漠全体へと拡散し、
熱を失って消えていく。
核主の巨体が、
ゆっくりと、崩れ落ちた。
ズゥゥゥン……。
砂嵐が止まり、
赤い大地が、静かに冷めていく。
リリアが、その場に膝をついた。
「……終わっ……た……?」
アランは槍を支えに、
荒い息を吐く。
「……ああ。
“核主”は、もう……。」
崩れた核主の残骸は、
ただの黒い岩塊へと変わっていた。
魔力の脈動は、ない。
紅砂帯を覆っていた
“灼熱反転”の律が、完全に消えている。
リリアが、ゆっくりと近づいてくる。
「……上位魔獣……倒したのよね。
しかも……ダンジョン化する前に。」
アランは苦笑した。
「正直……
俺が一番、信じられない。」
二人の間に、
静かな風が吹き抜ける。
その中で――
魔装槍が、微かに震えた。
淡金の光が収まり、
いつもの白銀へと戻っていく。
リリアが、槍を見つめる。
「……完全に“目覚めた”わね。
それ。」
「……そう、みたいだ。」
アランは槍を握り直す。
(導かれるだけじゃない。
選ばれてるわけでもない。)
(……一緒に、戦ってる。)
遠くで、研究班の通信符が震えた。
『紅砂帯の魔力反応、完全沈静化を確認!
ダンジョン化、阻止成功!!』
リリアが小さく笑う。
「報告したら……大騒ぎね。
“核主を倒した候補生”なんて。」
「やめてくれ……
静かにしてほしい。」
二人は顔を見合わせ、
思わず笑った。
だが――
アランは、砂漠の奥を見つめる。
(白霜峡。
紅砂帯。)
(残りの“異変”は……
まだ、終わってない。)
槍が、再び――
微かに“次の方向”を示した。
アランは、静かに呟く。
「……行こう、リリア。
次が……待ってる。」
赤い砂漠の向こうで、
まだ名もない異変が――
静かに、目を覚まそうとしていた。




