第82話:紅砂の胎動、目覚める“核主(コア・ベイラー)”
紅砂帯の中心――
大地がふるえ、砂丘が波のようにうねり始めた。
リリアが目を細める。
「アラン……っ、来るわよ……!
灼裂種があれだけ強いなら……
本体は、もっと――」
ズゥゥゥウン……
地面の奥底から、鼓動が響いた。
アランは槍を握りしめる。
橙に染まった光が、脈動に合わせて“共鳴”した。
(この槍……やっぱり、何かを示してる。)
砂が縦に割れた。
ボコッ……!
熱風が吹き上がり、
赤い粒子が渦を巻いて天へ昇る。
リリアが魔道具を操作しながら叫ぶ。
「魔力量……跳ね上がってる!?
これ、“核主”の胎動よ!!」
アランが眉をひそめた。
「胎動って……まだ起きてないのか?」
「ええ!
“律”に反応した生物が眠っているだけ。
でも――もし起きたら……!」
ズオオオオッ!!
砂煙が爆ぜ、巨大な“何か”の影が地表に現れた。
黒殻に覆われ、
赤い骨格が“砂の中から組み上がっていく”。
アランは思わず後退する。
(大きい……!
灼裂種の三倍……いや、四倍……!)
砂の中からせり上がったその巨体は、
背中に複数の“赤核”を抱え、
まるで巨大な甲羅のように光っていた。
リリアが蒼ざめる。
「ちょっと待って……!
“核”が一つじゃない……!?
複層核……ッ!!
これは中級じゃない!
上位の魔獣よ!!」
アランは飲み込んだ唾を感じた。
(上位魔獣……!?
学院の教科書にも、ほとんど載ってなかったやつじゃ――)
ゆっくりと頭部を持ち上げる。
赤い双眼がアランたちを捉えた瞬間、
砂漠全体が熱を帯びる。
ゴウウウウ……!!
砂粒が赤く光り、
地平線まで“赤い砂嵐”が走った。
リリアが叫ぶ。
「アラン!!
光魔法を撃っちゃダメ!!
吸われて“焼かれる”わ!!」
「じゃあ……どうすれば!」
「近づくしかない!!
核のどれか……どれでもいい、
一つを壊せば“律循環”が崩れて弱体化する!!」
アランは槍を構えた。
(近接戦……さっきよりもっと危険だ。)
(でも――)
槍が、“砂嵐の向こう”を指した。
アランは息を呑む。
(そこに……壊すべき核があるって、教えてるのか?)
核主が吠えた。
ズオオオオオォォォ!!
地面が揺れ、
赤い砂柱がアランめがけて突き上がる。
「アラン!!」
リリアの声が遠くなる。
――だが、アランはすでに前へ走り出していた。
橙閃の光をまとった槍が、
砂柱を切り裂きながら進む。
(導いてくれ……!
俺に戦い方なんてわからない。
でも、この槍なら――!!)
核主の巨体が迫る。
赤核が脈動し、
砂漠全体が“熱の反転”で歪む。
アランは叫ぶ。
「《ルミナエッジ――橙閃!!》」
橙の刃が砂嵐を切り裂き、
アランの身体ごと前へ押し出した。
核主の甲羅が目の前に迫る。
(もっと……もう少し!!)
その瞬間――
槍の先が“白金”へと戻った。
アランは気づく。
(この色……“転律”の前兆!!
白霜峡で見た……!)
強制的に属性が変わる現象。
雪の律を吸って白へ転じたのと同じだ。
リリアが叫ぶ。
「アラン!!
その核――“白”に反応してる!!
今ならいける!!」
アランは跳ぶ。
核主の背中へ――一直線に。
橙から白金へ、
光が完全に切り替わる。
アランは力の限り槍を突き出した。
「――ッ!!」
白い閃光が核を貫いた。
ズガァァァァンッ!!
核主の巨体が震え、
砂漠全体が一瞬、静止する。
リリアが息を呑む。
「一つ……割った!?
まだ複数あるけど……
今ので“循環”が乱れ始めてる!!」
アランは地面に転がりながらも立ち上がる。
(息を……整えろ……
まだ終わってない。)
核主が再び咆哮を上げた。
だが、その声は――
さっきより“低い”。
リリアが震える声で言う。
「アラン……
いける……!
今なら“上位魔獣”にも届く!!」
アランは槍を構え直した。
砂漠に、赤い風が吹く。
“導かれた先”には、
まだ割るべき核が、いくつもある。
砂漠の中心で――
第二幕が切り開かれる。




