第81話:紅核胎動者
紅砂帯の地面が裂け、
赤い光を帯びた“巨大な腕”が砂の中から伸び上がった。
バゴォォンッ!!
砂粒が爆ぜ、
灼熱でも氷結でもない“魔力の歪み”が周囲に広がる。
リリアが息を呑む。
「アラン……あれ、本当に“核そのもの”が形になりかけてる……!」
アランは槍を構えたまま、目を細める。
(白霜峡とは違う……
あれは生き物というより、“魔力の集合体”だ。)
砂を押しのけ、
胎動者が上半身をあらわにした。
獣とも人ともつかぬ、
赤核を中心に形作られた砂の巨体。
胸の奥で、赤い“心臓”が脈動している。
――ドクン……
ドクン……!!
(核の律が……外に漏れてる?)
アランの槍が微かに震えた。
リリアが叫ぶ。
「アラン!! 気をつけて!
胎動者はまだ“固まってない”分、挙動が予測できないの!」
「了解!」
胎動者が砂を巻き上げ、
巨大な腕を横薙ぎに振るった。
ズガァァアアッ!!
砂煙の衝撃波がアランへ迫る。
アランは地を蹴り、槍を横に振った。
「《ルミナエッジ》!!」
白光の刃が衝撃を裂き、
砂の塊を二つに割り落とす。
しかし――
ジュッ……
刃が触れた部分から、“光が焼けた”。
アランは眉をひそめる。
(やっぱり……
あの核から漏れる律に触れると光が焼ける!)
胎動者の胸核が赤く脈動し、
砂の流れが逆巻いた。
リリアが魔力計を見て叫ぶ。
「アラン!!
いま砂漠全域の魔力が“紅核”に吸われて……
胎動が上昇してる!!」
「つまり――時間がないってことだな!」
アランは一気に踏み込んだ。
胎動者の腕が迫る。
ドォォン!!
槍を立てて受け止める。
が――重い。とてつもなく重い。
(核の“圧力”が砂を通して伝わってくる……!)
胎動者がさらに腕を振り上げた。
リリアが叫ぶ。
「アラン!! 下がって!」
赤い霧が腕の周囲に生じ、
触れた砂が黒く焼け落ちる。
アランは反射的に後退。
同時に、槍が震え、橙光を帯びていく。
(氷哭のときと同じ……
いや、それよりもっと――荒い律だ。)
砂風が巻き起こる。
胎動者が胸核を開き、
赤核がむき出しになる。
胎動音が一気に早まった。
ドクドクドクドク……ッ!!
リリアが青ざめる。
「アラン!!
あれが暴発すると、この砂域が――」
「わかってる!」
アランは槍を構え、
核へ向けて踏み込んだ。
しかし次の瞬間――
胎動者が“砂を固めて槍の形”をつくり、
アランへ突き刺してきた。
「なっ……!」
砂の槍が弾丸のように迫る。
アランは槍を横に振り、
跳ね上げるように弾く。
ガギィィン!!
だが衝撃で腕が痺れた。
(砂とは思えない……
これ、ほぼ魔力の塊だ!)
リリアが詠唱を開始する。
「《テンペスト・フィールド》!!
アラン、前へ!!」
後方から強風が押し込まれる。
アランは助走を得て、一直線に胎動者へ。
胎動者が腕を広げ、
砂の壁を形成する。
(これ、普通に破れない……!
でも――)
槍が強く震え、
橙からさらに深い“紅橙色”が灯る。
(この槍は、核の律に“接触できる”……
なら――)
アランは叫ぶ。
「突破する!!」
「アラン!!」
リリアの叫びが背に響く。
アランは砂壁へ槍を突き込む。
「《橙閃――裂断》!!」
槍先が溶けるように砂壁を貫き、
一瞬のうちに内部を“裂いた”。
胎動者が苦悶するように揺れ、
胸の紅核が露出する。
アランは地面を蹴る。
(ここしかない……!!)
槍を両手で握りしめ、
核へ向けて突き込む――。
しかし。
紅核は突然“別方向へ跳ねた”。
「……えッ!?」
リリアが叫ぶ。
「アラン!!
あれは、胎動核の“自己防衛移動”!!
核が意志を持ってる!!」
胎動者が砂を噴き上げ、
核を中心に形を組み直す。
赤い光が砂漠全域に広がった。
ズゥゥゥゥン!!
アランは歯を食いしばる。
(……核が逃げる……!?)
槍が震え、
紅核の方向を指し示す。
アランは槍を構え直し、
深く息を吸った。
「逃がさない……!!
ここで止める!!」
胎動者が咆哮し、
砂漠が赤く燃え上がる。
リリアも隣に並ぶ。
「次で……決める!!」
紅核の胎動が、音を立てて加速した。




