第80話:砂下の脈動 紅核の胎動者
赤い砂漠に、重低音のような振動が広がった。
ズゥゥゥン……ッ
ズゥゥゥゥゥン……!
砂粒一つひとつが震え、
まるで“地面そのものが呼吸している”ようだった。
リリアが顔色を変える。
「アラン……!
地中の魔力流、さっきの灼裂種よりずっと大きい……!」
アランは槍を構えたまま、砂の波を睨む。
(この感じ……白霜峡の核より“荒い”。
律が暴れてる……!)
灼裂種はまだ健在だった。
赤黒い外殻を軋ませながら、
アランの前に立ちはだかる。
リリアが小声で言う。
「アラン……どうする?
このままじゃ核胎動まで手が回らない……!」
アランは静かに頷いた。
「まずはこいつを落とす。
ここを守れるのは、俺たちしかいない。」
灼裂種が砂を蹴り、突進してくる。
ギャアアアアッ!!
赤核が眩しく脈動し、
周囲の砂が一気に“魔力を奪われて赤く発火”する。
アランはすれ違いざま叫んだ。
「リリア、風で“砂を固められない!?”」
「やってみる……!
《テンペスト・ブレイク》!!」
風が爆ぜ、地面の砂が一瞬だけ圧縮されて固まる。
灼裂種が足を取られ、わずかにバランスを崩した。
(今だ――!)
アランは槍を構え、
心臓の奥で震える“橙の感覚”を引き出す。
「――《橙閃》!」
橙色の光が槍にまとわりつき、
灼裂種の胸核へ向けて突き出される。
ジュワッ……!!
光が焼け……
しかし、今回は槍の橙閃が“焼かれずに焼き返す”。
灼裂種の赤核が大きく揺らいだ。
リリアが驚く。
「効いてる……!?
アラン、その槍……灼熱の律と“ぶつかってない”!」
アランは息を吐き、確信した。
(この槍……
核の律を“分解”して吸っている……?
白霜の時と同じ……いや、それ以上だ。)
灼裂種がよろめき、
赤核が一瞬だけ弱く脈打った。
アランは地面を蹴る。
「これで――終わりだ!」
《橙閃》が灼裂種の胸核を貫く。
パリンッ!!
赤核が砕け、
灼裂種は砂の上へ崩れ落ちた。
砂漠の空気が一瞬だけ静かになる。
リリアが深く息をつく。
「やった……!
でもアラン……これで終わりじゃない。」
アランは頷く。
(そうだ……。)
地中から、
まるで巨大な鼓動のような“赤い光の脈動”が響いてくる。
ズ……ズズン……ッ!!
砂地が波打つ。
周囲の砂が、ひとりでに浮き上がり始める。
リリアが震える声で言う。
「……アラン、これ……
“核胎動者”が起き上がろうとしてる……!」
「胎動者……?」
「ダンジョン化前にだけ現れる、
“核の生まれかけの姿”よ……!
本物の核よりずっと不安定で、
暴れれば砂漠一帯が……」
再び地面が弾けた。
バゴォォンッ!!!
砂煙の中から、巨大な影がせり上がる。
赤い砂と魔力の塊で形作られた――
巨大な“獣の上半身”。
その胸部の奥で、
胎動する“紅核”が脈打っていた。
アランは槍を構える。
(これが……
灼裂種を生んだ“核の本体”か――!)
リリアが叫ぶ。
「アラン!!
絶対に魔法は撃たないで!
全部“焼かれる”!!」
「わかってる!」
アランは槍を握りしめた。
(近接しかない……!
でも――)
槍が微かに震え、
橙光がふっと強くなる。
リリアが目を見開く。
「……アラン。
あなた……本当に核の律と“接続”してるんだわ……。」
アランは前へ踏み出す。
「行くよ、リリア。
この“紅核”を止めて――
砂漠のダンジョン化を阻止する!」
紅砂が舞い上がり、
胎動者が咆哮した。
砂漠の核との戦いが――
いま、始まる。




