第76話:凍てついた心臓 氷哭竜の核心へ
白霜峡の全体に響く咆哮。
氷哭竜は、裂かれた外殻を守るように身を震わせ、
峡谷の地脈を“完全凍結”させようとしていた。
地面が白金に染まり、空気が硬質化し始める。
(まずい……!
このままじゃ峡谷そのものが“氷界核”になる!)
アランは槍を構え、呼吸を整えた。
リリアが隣から叫ぶ。
「アラン! 魔力の流れ、完全に竜の中心核へ集まってる!
あそこを壊すしか――!」
「わかってる!!」
氷哭竜が口を開いた。
内部で青白い光が渦巻いている。
(凍結波……!
食らえば、ただじゃ済まない!!)
アランは槍を握り直し、
小さく呟いた。
「……頼む。
お前も――“戦わせてくれ”。」
槍の白金光が脈動した。
まるで応えるように、震えがアランの腕に伝わる。
リリアが驚く。
「アラン……その槍、完全に共鳴してる……!
あなたの魔力と……凍結核の律まで……?」
「今だけ、借りる!!」
氷哭竜の翼が振り下ろされ――
「――来るッ!!」
凄まじい冷気が奔った。
アランは地を蹴り、
その冷気をギリギリで回避する。
直後、凍結波が地面一帯を白く染めた。
(急がないと……)
アランは槍を立て、光を集中させた。
その動きに、氷哭竜が反応する。
竜が胸の裂け目を守るように、
氷の翼を広げ――地脈の光を吸い込んだ。
「……あれ、核に魔力を集めてる……!」
リリアが叫ぶ。
「アラン、今よ!
暴走前に止めないと――!!」
アランは力強く踏み出した。
「《ホーリードライブ》!!」
光が体表にまとわりつき、
足元の氷を砕きながら一直線に疾走する。
氷哭竜が咆哮し、
胸部の裂け目へ“凍結膜”を生成した。
(させない!!)
アランは槍を正面に構え――
「――ッ!!」
氷哭竜との距離が一瞬で詰まる。
竜の赤い瞳がアランを睨む。
アランは叫んだ。
「《ルーメン》!!」
槍が白金の光で満たされる。
リリアが詠唱。
「《テンペスト・フィールド――推進!!》」
後方から巨大な風が吹き抜け、
アランの体を押し出す!!
氷哭竜が氷の牙を開いた。
アランは――跳んだ。
竜の首元を蹴り、
裂け目の中心核へ槍を突き出す。
「ここだ……ッ!!」
白霜峡全体を震わせる光。
槍先が中心核に届き――
アランは魔力を全開にした。
「《ホーリーランス――共鳴閃》!!」
白金の光が竜の胸を貫き、
内部の青い核を“砕いた”。
パリンッ――!!
氷哭竜の体が震え、
赤い瞳が淡く揺らぐ。
リリアが息を呑んだ。
「……止まった……!?」
竜の体を覆っていた氷殻が、
音もなく崩れ落ちていく。
外殻が雪のように散り――
巨体は静かに倒れ込んだ。
地脈の光が、温かく流れはじめる。
アランは氷の上に着地し、
大きく息をついた。
(……終わった……のか?)
リリアが駆け寄ってくる。
「アラン!! だいじょうぶ!?」
「なんとか……。
槍が……助けてくれた。」
アランの手に握られた白金の槍は、
先ほどよりも静かに輝いていた。
リリアが目を丸くする。
「これ……完全に“魔装槍”として覚醒してる……!」
「あなた、本当に共鳴適性あったのね……」
アランは苦笑い。
「初耳だよ……そんなの。」
そのとき、地脈から柔らかい光が湧き上がった。
リリアが振り返る。
「……ダンジョン化、消えた……!」
峡谷の氷霧が晴れ、
白い風が静かに流れていく。
アランは倒れ込んだ氷哭竜を見つめた。
(お前も……
“凍結の律”に飲まれただけなんだな。)
槍が微かに震えた。
竜の核から受け継いだ“律の記憶”が、
どこか哀しい響きを持っていた。
アランはゆっくりと槍を下ろし、呟く。
「……もう、誰もこんなふうに狂わなくていい。」
リリアがそっと隣に立つ。
「アラン……行こ。
峡谷の安定化を、報告しないと。」
「うん。」
氷哭竜の亡骸に背を向け、
二人は峡谷の出口へ歩き出した。
白霜峡――
凍てつくダンジョンの前兆は、
一人の“光導士候補生”によって消え去った。
だがその底に残された“律の歪み”は――
次の異変へと、確実につながっていた。




