第73話:白霜峡・第二波動 “本命”の目覚め
白霜峡の上空――。
核崩壊の光が消え、静寂が戻ったかに見えた峡谷。
アランは新たに手に入れた魔装槍を握りしめ、深く息を吐いた。
(……終わった。はず……なんだけど)
だが、胸の奥で妙なざわつきが続いていた。
リリアが周囲を見渡しながら言う。
「変ね。核が壊れたのに……地脈の震えが止まらない。」
隊長も険しい顔をする。
「普通なら凍結波も止まるはずだ。しかし……まだ“流れている”。」
その時だった。
峡谷の奥――
氷煙の向こうで、“鼓動のような”低い音が鳴り始めた。
ド……ンッ
ドン……ッ
ドン……ッ!!
アランの背筋が凍る。
(……これは、核の反応じゃない。
もっと……深いところからの“脈動”だ)
リリアが杖を構える。
「アラン……感じる? 地脈の底が――呼吸してる。」
「うん。黒殻ダンジョンの時より……ずっと嫌な感じだ。」
隊長が資料端末を開き、蒼白になる。
「まさか……“第二波動”……!?」
アランとリリアは同時に振り向いた。
「第二波動?」
「それって何なの?」
隊長は唇を噛む。
「地脈の変異が大規模な場合、核心が壊れても――
“下層構造”が別に生まれることがある。
黒殻では記録されていない……が、古い文献に少しだけ記述がある。」
リリアの顔色が変わる。
「つまり……いま核を壊した場所が“表層”で、
本当の発生源はもっと“下”にあるってこと……?」
ドンッ……ドンッ……!!
地面が脈打つたび、足元の薄氷が砕け、白い霜が舞い上がる。
アランは峡谷の裂け目を見る。
その奥――
いままで見えなかった“蒼い穴”がゆっくりと開いていく。
リリアの声が震えた。
「……あれ……巨大すぎない……?」
隊長が端末を見ながら叫ぶ。
「地脈の“深層管”が露出している!
これは……大陸規模の地脈が直結している証だ!」
アランは、魔装槍を構えた。
槍が微かに震え、金光を放つ。
リリアが気づく。
「アラン……あなたの槍、さっきと光り方が違う……!」
「うん……多分、あれに反応してる。」
深層の穴の奥――
蒼い光の中心に、“何か”が眠っていた。
巨大な“卵”のような結晶。
内部で揺らぎ、脈打ち、明らかに生物的な気配を放つ。
隊長は呆然と呟く。
「……あれが白霜峡の……“本命”……?」
リリアが叫ぶ。
「つまり!!
あれが生まれたら、白霜峡は完全に――
ダンジョンに変わるってことよ!!」
次の瞬間。
蒼い穴の奥から、
裂け目全体に響き渡る轟音が鳴り響いた。
グワァァァァァァアアアアアアッッッ!!
アランの肌が粟立ち、膝が一瞬すくむ。
(黒殻とは……全然違う……これは――
“冷気の魔獣”の誕生……!?)
蒼い結晶が砕け、光が溢れる。
霧が弾け飛び――
氷の翼を持つ巨大な獣が姿を現した。
全長十数メートル。
体表は白銀の結晶で覆われ、
眼だけが赤い“災厄の光”で燃えていた。
リリアが絶望的な声で囁く。
「……嘘……
これ……“氷哭竜”……?」
隊長が声を失う。
「文献にしか記録がない、深層級魔獣……」
アランは槍を握りしめた。
新たな冷気の波動が白霜峡全体を覆い尽くす。
アランの手の中で魔装槍が震えた。
(――やるしかない)
「……リリア。後ろで結界を張って。
俺が前に出る。」
リリアの瞳が揺れる。
「アラン……死ぬわよ!?」
アランは笑った。
「だいじょうぶ。
魔装槍が――
“戦え”って言ってるから。」
氷哭竜が翼を広げた。
白霜峡の本当の戦いが――いま始まる。




