第72話:氷殻核の崩壊と魔装槍
白霜峡――
中心部の裂け目から噴き上がる白い氷煙が、さらに濃くなっていた。
アランは氷牙狼の群れを押し返しながら、槍を引き寄せて叫んだ。
「リリア! 後ろの裂け目の脈動が強くなってる!」
「分かってる! でも……これ、もう“生成寸前”よ!」
峡谷の地面が震えた。
ゴゴゴゴ……ッ!!
凍結波が地表を走り、氷の棘が一斉に隆起する。
隊長が叫ぶ。
「まずい! “核”が完全に形成される前に、中心構造を破壊するんだ!
アラン君、君の光魔法なら――!」
「やってみる!」
アランは大きく跳躍し、中心裂け目へ向けて駆けだした。
その瞬間――
霧の奥で、巨大な影が立ち上がった。
氷牙狼の“変異体”ではない。
氷と霜が鎧のように積層し、
背には魔力の歪んだ結晶――氷殻核が突き出ていた。
さっきの核化種を素材として吸収し、さらに巨大な守護体へ変わった姿だ。
リリアが青ざめる。
「……あれ、“核の守護体”……!?」
氷塊の巨獣が咆哮する。
ゴァァアアアアアアアッ!!
冷気が空気を切り裂き、白い柱となって突き抜けた。
アランは咄嗟に《リカバー》で結界を展開し、氷の衝撃を受け流す。
(耐えた……! でも、これ以上近づけば――)
氷殻核が脈動し、周囲の氷牙狼が一斉にひれ伏す。
その光景を見た瞬間、アランは確信した。
(あれを壊さない限り……この峡谷は全部“ダンジョン”になる!)
「アラン! 行く気ね!?」
「行くしかない!」
リリアが必死に叫ぶ。
「あなたの槍じゃ“核”は砕けない!
魔力結晶に対抗できる装備じゃないのよ!!」
その言葉が終わるより早く――
氷殻巨獣が腕を振り下ろした。
アランは地面を蹴り、横跳びで避ける。
だが……その衝撃で、岩壁の一角が崩れ落ち、氷塊が露出した。
「……ん?」
氷塊の内部。
淡い金色の光を放つ“長柄の影”が埋まっていた。
リリアが息を呑む。
「アラン……それ、見て……!」
アランは無意識に手を伸ばした。
手のひらが氷塊に触れた瞬間――
白い氷が音もなく砕け散り、光の粒へと分解された。
その中から姿を現したのは――
一本の槍。
柄は白銀。
刃は淡い金光をたたえ、氷の上で蒼い光を反射する。
胸が震えた。
(これ……“呼んでる”……?)
リリアが震える声で呟く。
「……まさか……魔装槍……?
ダンジョン生成前の“浄化装置”の一種……!」
隊長が目を見開いた。
「それは“地脈核に干渉するための槍”だ!
本来、生成寸前のダンジョンにしか現れないはず……!」
アランは槍を握りしめた。
刹那――
胸の奥に鮮烈な魔力が流れ込む。
(これなら……核を砕ける!)
氷殻巨獣が再び咆哮した。
アランは槍を構える。
「――行くぞ!」
白い霧の中、アランの影が弾ける。
《ホーリードライブ》
光の奔流が槍と身体を包み込み、雪原が一瞬で照らされた。
リリアが叫ぶ。
「アラン!! 正面は危険よ!!」
「分かってる! でも――砕けるのは今しかない!!」
アランは槍を突き出し、巨大な氷塊へと突っ込んだ。
氷殻巨獣が腕を振り下ろす。
アランの槍がその腕を貫き、砕け散る。
さらに地を蹴り――
「はああああああッ!!」
黄金の軌跡が氷殻核へと収束する。
《ホーリーランス》――
槍先に光の魔法が重なり、刃が純白に輝く。
そして――
ズドォォォォォンッ!!!
核を貫く轟音とともに、峡谷全体にまばゆい光が広がった。
氷殻核が崩壊し、冷気が一閃に霧散する。
巨獣が悲鳴のような声を上げ、
砕けた氷とともに倒れ崩れた。
そして――
白霜峡を満たしていた“凍結の波”が、ゆっくりと消えていく。
リリアが震える声で呟いた。
「……やった……の……?」
アランは槍を肩に担ぎ、息を整えた。
「“核”は砕いた。これで……白霜峡はダンジョンにならない。」
隊長は大きく息を吐き、アランの肩を掴んだ。
「助かった。君がいなければ帝都北側は全滅だった……!」
アランは手にした槍を見つめる。
淡い金光が静かに脈打つ。
(これが……《魔装槍》……
光魔法と“相性”が……いい……?)
リリアが微笑む。
「……似合ってるわよ、アラン。」
アランは照れたように笑った。
「名前……つけたほうがいいかな?」
「ええ。“光導士”としての……最初の相棒だもの。」
吹き抜ける冷たい風の中、
アランは新しい槍の柄を強く握りしめた。
その瞬間――
氷の霧の奥で、何かが“目を開ける”音がした。
白霜峡はまだ――
終わってはいなかった。




