第67話:再接触 記録封印の扉
帝国研究塔・地下観測区画。
厚い魔晶壁に囲まれた部屋が、静かに脈動していた。
中央に浮かぶ透明容器。
その奥で、“欠片”は淡い光を灯している。
アランは、一歩前に進んだ。
「……これが、もう一度“視る”ための装置?」
セレスティア教官が頷く。
「正確には、“干渉”ね。
あなたの魔力を媒介に、欠片内部の記録を引き出す。」
後方では監査官三名――レオニール、マリエッタ、ダリオが
厳しい表情で観測装置を構えていた。
リリアだけが、観測ガラスの向こうで手を握り締めている。
(アラン……無茶はしないでよ……)
セレスティアが静かに宣言する。
「――封印記録、第二層の接続を開始します。」
装置が低く唸り、魔晶板に光の紋が走った。
アランの胸が熱を帯びる。
(……始まる)
“欠片”がふっと輝きを強め――
――《適合率 68%……干渉許可》
機械音ではない。
声ともつかない意識の波が、アランの頭に直接響く。
レオニールが息を呑む。
「……また反応したか!」
マリエッタが記録板に走り書きをする。
「やっぱり本人だけがトリガー……!」
セレスティアが短く命じた。
「アラン、意識を集中して。
“記録”が開くわ!」
光が弾けた。
部屋が消え、地面が砕け、空が灰に変わる。
アランはどこか別の場所に立っていた。
(また……あの世界……?)
目の前に、巨大な地殻の裂け目。
そこから黒い霧が噴き上がっている。
その霧が、形を変え――獣となる。
四肢。爪。牙。
そして、六つの光る眼。
「黒殻獣……!?いや……違う……!」
獣は街を引き裂き、建物を飲み込んでいく。
それは“黒殻ダンジョン”へと変貌していく光景だった。
――《始源ノ異常。流レノ逆位。
律、拒絶。》
アランの背筋が凍る。
(これ……黒殻ダンジョンの“誕生”……?)
景色の中心に、黒い影が立っていた。
人の形に近い。
だが顔はなく、光もない。
――《光導士。記録ノ資格者。》
アランの心臓が跳ねた。
「光導士……?
俺が……?」
――《導キハ力ニアラズ。選択ニ在リ。
流レヲ流レノママニ。
止メズ。縛ラズ。拒マズ。》
意味は掴めない。
だが胸にだけ、奇妙に刺さる。
「……封印は、“止めた”から滅びた?」
影が微かに揺れた。
――《停滞ハ死。流転ハ生。》
アランは息を呑む。
(誰かが……流れを止めた。
だから街は崩れ、“黒殻”が生まれた……?)
その瞬間――
獣がこちらを振り向いた。
六眼がアランを射抜く。
そして――跳んだ。
「アラン!!!」
声が響いた瞬間――視界が砕けた。
現実へ引き戻され、アランは膝をつく。
全身が震える。呼吸が荒い。
セレスティアが駆け寄った。
「接続を強制遮断したわ! 危険な反応が出た!」
背後でリリアが叫ぶ。
「ちょっと! なんで一人で突っ込むのよ!」
マリエッタが観測板を見て青ざめる。
「……今の魔力波形……黒殻獣と完全一致……!」
レオニールが低く呟いた。
「つまり……
黒殻ダンジョンは“自然発生”ではない……。」
ダリオが補足する。
「――何者かの“干渉”によって生まれた。」
部屋に沈黙が落ちる。
アランは震える手を握り締めた。
(あれは……ただの記憶じゃない。
“始まり”だ……)
欠片が、微かに脈動した。
まるで――次を促すように。




