第66話:帝都への帰還 封印核の分析
黒殻ダンジョン・外縁区。
薄灰の空の下、転移門がゆっくりと開いた。
アラン・ルクレディアとリリア・アルヴァインは、
その光の中を抜けて帝都へ戻ってきた。
足を踏みしめた瞬間、空気がまるで別世界のように軽い。
「はぁ……やっと帰ってきた……」
リリアが肩を落とす。
アランは胸元の袋に手を添えた。
中には、あの“欠片”が静かに入っている。
(まだ温もりが残っている気がする……)
転移門の前では研究局の職員が待ち構えていた。
「戻りました! 負傷者なし!」
「欠片の反応は?」
「微弱だが……まだ脈動しているぞ!」
騒然とした声が飛び交う。
その中で、
白衣の裾を翻しながらセレスティア教官が近づいてきた。
「二人とも無事でよかったわ。……欠片は?」
アランは胸元から袋を差し出す。
セレスティアは慎重に受け取り、符文装置へ移す。
装置が淡く光り、内部の“欠片”がふわりと浮いた。
研究員たちがざわつく。
「反応、安定している……!」
「まるで“自ら休眠している”ような波形だ!」
「黒殻獣の魔核とは完全に別物だな……」
リリアがアランの耳元で小声で言う。
「ねぇ……やっぱり普通じゃないわよ。
あなた、またとんでもないもの拾ってきたでしょ。」
「……たぶん。」
アランは苦笑する。
「“記録”か“伝言”のようなものを見せられた。
でも……まだ意味はわからない。」
リリアは眉を寄せた。
「また危険に巻き込まれる予感しかしないんだけど?」
アランは言葉に詰まる。
(……俺もそう思う)
研究塔内・特別解析室
封印容器は透明な魔晶板に収められ、
複数の観測装置が周囲に展開された。
青白い光が欠片を照らし、魔力波形が記録されていく。
セレスティアが腕を組んで言った。
「アラン。あなたが見た映像を、もう一度説明して。」
アランは深呼吸し、ゆっくり語り始めた。
「……崩れた街。
それと……巨大な穴から噴き出す光。
それを“律”とか“選択”とか、そんな言葉で説明してきた影がいました。」
研究員たちの表情が強張る。
「街の崩壊……?」
「律の干渉……まさか……」
「過去の記録か、それとも未来の予兆か……?」
リリアがアランの隣でそっと腕を組む。
「でも、そんなもの……本当に“見せられた”って言うの?」
「……うん。
違和感じゃなくて、本物の記憶みたいだった。」
「誰の?」
リリアが食い下がる。
アランは視線を落とし――
「……わからない。
でも……“人間”じゃない気がした。」
室内が静まり返る。
セレスティアだけが、落ち着いた声で言った。
「――アラン。あなたは“見せられた”のではなく、
“選ばれた”可能性が高いわ。」
アランは眉をひそめる。
「選ばれた……?」
「ええ。“律の欠片”と直接干渉しても正気を保った人間は、
帝国史上……あなたが初めてよ。」
リリアが思わず叫ぶ。
「えっ、それって危険じゃないの!?」
セレスティアは微笑み、ゆっくりと首を横に振った。
「危険よ。でも同時に……希望でもある。」
アランの胸がざわつく。
(希望……?)
そのとき――
部屋の扉がノックされ、黒衣の人影が現れた。
レオニール、マリエッタ、ダリオ。
帝国魔法評定庁の査定官トリオが揃って入室する。
レオニールが口を開く。
「――アラン・ルクレディア。
お前が接触した“欠片”について、帝国が本格的に調査に入る。」
マリエッタが腕を組んで続ける。
「君の魔力量では扱いきれない可能性もある。
無茶はしないで。」
ダリオは冷静に告げる。
「ただし――
君以外の者が触れれば“壊れる”可能性がある。
つまり、“君はこの欠片の唯一の観測者だ。”」
アランは息を呑んだ。
唯一の――観測者。
(俺は……何を託されてるんだ?)
リリアがアランの肩を軽く叩く。
「……覚悟してるんでしょ?」
アランは小さく頷く。
「うん。
この答えは……俺が探さなきゃいけない。」
セレスティアが静かに言う。
「では次の段階に進みましょう。
――“欠片”の内部に残された意志を、もう一度読み取るために。」
アランは深く息を吸った。
胸の奥で、あの欠片の温もりがわずかに脈打つ。
(……来るなら、受け止める。)
彼の中で、新たな覚悟が生まれていた。




