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第65話:接触 欠片の記憶

白い光に包まれた瞬間、アランは足元の感覚を失った。


風も音もない。

ただ、どこまでも静かな“白”の世界。


(……ここは?)


視界に輪郭が生まれ、ぼんやりとした影が立ち上がる。


人影のようだが、顔も衣も、すべてが揺らいでいる。


その影が、音もなく動いた。


――《記録ヲ開始スル》


頭に直接響くような、冷たい声。

アランは思わず眉をひそめる。


(……声? いや、意志だ。)


影が腕を伸ばし、地面を指さす。


その足元に――

崩れた街並みが現れた。


瓦礫、折れた塔、乾いた大地。

そして、中心にぽっかりと開いた巨大な穴。


眩い光が、そこから噴き出す。


(これは……)


アランの胸がざわつく。


(ダンジョン……じゃない。もっと前の……何かだ。)


影の声が再び重なる。


――《律ハ乱レタ。

   理ハ砕ケタ。

   世界ハ“選ンデ”壊レタ》


アランは息を呑む。


(世界が……選んで?)


影の残像が砕けていき、光が強くなった。


視界が弾ける。


バチィィッ!!


アランは現実へ叩き戻された。


膝をつき、荒く息を吸う。


「アラン!!」

リリアが叫んで駆け寄り、肩を支える。


「大丈夫!? 今、何が――」


「……わからない。」

アランは額に手を当て、頭痛を抑え込む。


「ただ……映像が、見えた。

 街が……壊れていくのを。“光”で。」


リリアが言葉を失う。


周囲の観測班も緊張を高め、


「反応値が跳ね上がっている!」

「欠片が……アランに同調してる……!?」

「危険だ、離れろ!」


と騒ぎ出す。


だが、欠片はもう暴れていなかった。


アランの目の前で静かに漂い――

まるで“観察”するように、アランを見つめている。


(……俺を、見てる?)


手を伸ばすと、欠片は小さく震えた。


光でもなく、影でもなく。

ただ“存在”だけを主張しているようだ。


リリアが警戒しながら言う。


「アラン……もう触れないで。

 次は本当に危ないかもしれない。」


「わかってる。でも……」


アランは小さく息を吐いた。


「これは、敵意じゃなかった。

 “記録を見せられた”……そんな感じだったんだ。」


観測班の主任が前に出る。


「危険と判断し、欠片は回収する!

 封印容器を持ってこい!!」


研究員たちが駆け寄り、

符文装置の入った箱を準備し始めた。


しかし――


欠片がピクリと動いた。


アランの方へ寄る。

それに合わせて、装置が震え始める。


主任が叫ぶ。


「安定していない!

 アラン・ルクレディア、後方に退避しろ!!」


だがアランは動かなかった。


(これは……俺を“選んで”接触した。)


理解ではなく、直感だった。


リリアが焦った声で肩を掴む。


「アラン! 言うこと聞きなさい!!」


「……大丈夫。

 さっきわかったんだ。これは……“記憶の断片”。」


リリアが息を呑む。


「記憶……?」


アランはゆっくりと顔を上げた。


「誰かが見た世界。

 誰かが壊した街。

 そして――“選ばれた光”。」


瞬間、欠片が強く輝いた。


ピシィ――!


空間の魔力が震え、風が巻き起こる。


観測班が叫ぶ。


「距離を取れっ!!」

「爆ぜるぞ!!」


だが――

欠片は爆発しなかった。


ただひとつ、柔らかな音を立て――


カラン、と。


アランの足元へ落ちて、光を失った。


まるで、役目を終えたように。


アランは拾い上げようと手を伸ばす。


リリアが一瞬迷った後、小さく頷いた。


「……気をつけて。」


手のひらに乗せると、欠片は温かかった。


アランは呟く。


「……これは“破片”なんかじゃない。

 “伝言”だ。」


リリアの瞳が揺れる。


「だとしたら……誰が?」


アランは答えられなかった。


ただ、胸の奥がざわついていた。


(あれは……俺に“何かを見せようとした”。

 昔の出来事……?

 それとも――これから起こること?)


それはまだ、誰にも分からない。


ただひとつだけ確かなのは。


新しいダンジョンの“核”は、すでに動き始めている――。


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