第62話:律動の塔 監査官からの召集
帝都ルメニア・中央塔。
その最上層――
帝国でも限られた者しか立ち入れない《監査観測室》に、緊急の魔力アラームが鳴り響いた。
青白い魔導灯が瞬き、
壁一面の魔脈図に赤い線が浮かび上がる。
その中央で、レオニールが短く呟いた。
「……始まったか。“揺らぎ”の連鎖が。」
横で腕を組むマリエッタが、冷静に数字を読み上げる。
「南区、北東区、外縁第六区……同時に三か所。
全部、魔脈の振幅が“共鳴型”。灰哭副層と同質。」
最後に、書類をめくるダリオが続けた。
「そして……どこも制御塔の安定化陣では吸収しきれてない。」
三人は、無言で顔を見合わせる。
帝都が――静かに、だが確実に揺れ始めていた。
同刻/帝国魔導学院・中庭
アランはベンチに座り、胸に手を当てていた。
(……まだ鼓動が残ってる。
あの“調律光”。)
胸の奥で微かな金色が脈動する。
リリアが心配そうに覗き込む。
「さっきから落ち着かないようだけど……大丈夫?」
「うん。ただ……魔脈の流れに、どうも違和感があって。」
「違和感?」
「言葉にしづらいけど……
まるで帝都全体が呼吸を変えたみたいな……。」
リリアが苦笑した。
「また変な感覚を拾ってるのね。
あんたの“光の直感”、当たるから怖いわ。」
そのとき――
パァンッ!!
空中で魔導印が破裂した。
学院上空に、巨大な光符が展開される。
《緊急指令:アラン・ルクレディア
及び リリア・アルヴァイン
帝都中央塔へ至急召集》
兵士たちが驚き、学院生がざわめく。
アランが立ち上がった瞬間、背後から声が響いた。
「――どうやら、お前の休憩は終わりのようだな。」
振り返ると、レオニールが黒衣のまま立っていた。
後ろにはマリエッタ、ダリオの姿。
監査官トリオが勢ぞろい。
学院生たちが一斉にざわめく。
「監査官……!?」「なんで学院に……?」
レオニールはアランへ歩み寄り、言う。
「お前の光が必要だ。
帝都の“魔脈”が再び揺らぎ始めた。」
アランの背筋が固くなる。
「……灰哭副層と、同じ反応ですか?」
マリエッタが頷く。
「正確には“似ている”程度だけど。
ただ、放置できるレベルじゃない。」
ダリオが淡々と告げる。
「皇帝陛下、および魔導士団本部の要請だ。
『光導士候補』としての初任務になる。」
(……光導士、候補生としての、初任務……。)
アランは静かに息を吸い、頷いた。
「わかりました。向かいます。」
リリアもすぐに隣に立つ。
「私も行くわ。あんたがまた無茶しないように見張らなきゃね!」
レオニールが肩をすくめた。
「好きにしろ。
どうせ“コンビで一つの波動”なのは検証済みだ。」
数分後/中央塔最上層
巨大な魔脈図を前に、アランは息を呑んだ。
「……これ、全部……?」
地図上の赤印は、すでに六か所。
リリアが声を震わせる。
「同時多発的……こんなの、普通じゃないわ。」
マリエッタが目を細める。
「魔脈が誰かに“触られている”……
そう考えたほうが自然ね。」
レオニールがアランに向き直った。
「そして、その“誰か”を見つけられるのは――
現状、お前の光だけだ。」
アランは拳を握った。
胸の奥で、金色の調律光が脈動する。
(また……何かが呼んでる。
帝都全体が、歪んだ呼吸をしてる。)
「監査官殿……俺に何をすればいいですか?」
レオニールは深く息をつき、告げた。
「――“調律”だ。
帝都の魔脈全体を、ひとつずつ整えていく。」
「整えるって……どうやって?」
三人の視線が、アランの胸へ向けられる。
マリエッタが静かに言った。
「君の光が、“律”に選ばれたんでしょ。
なら、できるはずよ。」
アランの心臓が高鳴った。
(帝都の魔脈全部を……俺が……?)
リリアがそっとアランの背中を押した。
「大丈夫。私がいる。
一緒に、整えに行くわよ。」
アランは自分の胸で脈打つ光を感じながら、ゆっくりと頷いた。
「……行こう。
帝都を――整えるために。」
その瞬間。
中央塔の窓の向こうで、
帝都の魔導灯が一斉に揺らいだ。
まるで――何かが目を覚ます前兆のように。




