表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/33

第6話:初級ダンジョン第2層 ゴブリン戦

階段を降りると、空気が変わった。

ひんやりとした湿気が肌にまとわりつき、かすかな鉄の匂いが鼻をつく。


「……これ、血の臭い?」


通路の奥から、がさりと物音がした。

現れたのは――人型。背丈はアランの胸くらい。

濁った黄緑の肌に、ぎらついた目。手には錆びついた短剣。


「ゴブリン……!」


ゲームや小説で散々見てきたが、実物は想像以上に禍々しい。

しかも、ひとりではなかった。通路の奥から、ぞろぞろと三体が姿を現した。


「ちょ、数多すぎない!? 初級って言ったよな!?」


震える足を必死で踏ん張り、アランは短槍を構える。

と、その瞬間――一体が突進してきた。


「《ルーメン》!」


槍先を光らせ、真正面から振りかぶる。

ゴブリンが一瞬だけ目を細め、動きが鈍る。


「いける!」


突き出した槍は見事にゴブリンの胸をとらえた。

だが――。


「……硬っ!? スライムと全然違う!」


浅く刺さっただけで、ゴブリンは苦悶の声をあげつつも踏みとどまり、短剣を振り下ろしてきた。


「うわっ!」


間一髪で後退し、皮鎧の肩をかすめられる。冷や汗が背を伝う。


「やっぱ人型モンスターは格が違う……!」


残る二体も迫ってくる。

三対一。正面からやったら確実に負ける。


「……なら!」


アランは後退しながら、《ルーメン》を壁際に向けて閃光を放った。

光が反射し、ゴブリンたちは一瞬目を覆うように顔を歪める。


その隙に――。


「はあああっ!」


アランは側面に回り込み、最初のゴブリンの脇腹を突いた。

槍が肉を裂き、ゴブリンが崩れ落ちる。


「よし、一匹!」


だが、すぐに残り二匹が吠えながら迫ってくる。

その姿に、アランは必死で笑いを浮かべた。


(ああ、やっぱりだ……俺の戦い方は、泥臭くて必死で――まるで光を操る魔法使いじゃなく、“ただの冒険者”みたいだ。でも……!)


槍を構え直し、再び光を宿す。

「これが俺のやり方だ! 懐中電灯芸・第三幕、開演だあああっ!」


槍を構え直す俺に、残り二体のゴブリンが牙をむいて迫ってきた。

「ぎっ、ぎっ!」

低く濁った声を上げ、短剣を振りかざして突っ込んでくる。


「くっそ! 二体同時は無理だろ!」


俺は慌てて後退しながら、槍の先に光を集中させた。

「《ルーメン》!」


閃光が通路に広がり、狭い空間いっぱいに反射する。

ゴブリンたちは「ぎぃっ!?」と目を押さえ、一瞬動きを止めた。


(今だ!)


一体目に狙いを定め、踏み込みざまに槍を突き出す。

槍先がコア――ではなく、胸部を貫き、ゴブリンは血を吐きながら崩れ落ちた。


「よしっ……残り一体!」


だが、最後の一体は怒り狂ったように咆哮を上げ、短剣を振り下ろしてくる。

「ぎゃぁぁあっ!」


ガキィンッ!

槍で受け止めるが、衝撃で腕がしびれる。


「おいおい! 力強すぎだろ!? スライムの百倍はしんどいぞ!」


必死に押し返しながら、俺は槍を振り払った。

その勢いで距離を取る。


(冷静に……冷静に考えろ。光を当てれば動きが鈍る。それで隙を作って……!)


槍を再び構え、今度は真正面から突っ込んだ。

「うおおおおっ!」


《ルーメン》が輝き、狭い通路を白く染める。

ゴブリンが眩しさに顔をしかめ、動きが一瞬だけ遅れた。


「そこだぁっ!」


槍先を突き出し、ゴブリンの胸を貫く。

ごりっと硬い手応えの後、槍は深々と突き刺さり――ゴブリンは血飛沫を上げて倒れた。


「……っはぁ、はぁ……」


全身汗まみれで、膝が笑う。

たった三体のゴブリンにここまで追い詰められるなんて。


「はは……やっぱ俺、向いてねぇんじゃ……」


そう呟いたそのとき、ふいに槍の先が淡く光った。

スライムを倒したときには感じなかった、不思議な反応。


(……これって、もしかして経験値とかそういうやつ?)


胸の奥にじんわりとした熱が広がり、少しだけ魔力が満ちていく感覚があった。


「……まだ終わりじゃねぇってことか」


立ち上がり、槍を握り直す。

次の階層へと続く階段が、薄暗い通路の先に口を開けていた。


(よし……行くしかねぇ!)


俺は深呼吸し、足を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ