第58話:帝都会議 光導士の名の下に
帝都ルメニア・中央評定庁。
白銀の塔群を望む会議室には、早朝にもかかわらず重苦しい空気が満ちていた。
楕円形の巨大な会議卓には、帝国魔導士団、研究局、学院代表がずらりと並ぶ。
その中央で、セレスティア教官が立ち上がった。
「――灰哭副層、封印任務の報告を開始します。」
魔導盤に映し出されたのは、揺らぐ地脈核、逆流する魔力、そして封印陣の崩壊跡。
小さなざわめきが起こる。
「地脈核が……ここまで乱れた記録は十年ぶりだ。」
「いや、逆流現象は百年前の“灰哭事件”以来かもしれん。」
セレスティアは視線を上げ、淡々と続けた。
「しかし、暴走は沈静化されました。
――アラン・ルクレディアとリリア・アルヴァイン。
二名の学生による“光と風の共鳴”によって。」
緊張が走る。
魔導士団の上席が、不思議そうに眉を上げる。
「学生が……あの異常を止めたと?」
「はい。共鳴現象は完全再現できていませんが、魔導盤には“律干渉”の痕跡が残っています。」
魔導盤に表示された波形が、淡く金色に揺れる。
「“律干渉”……自然律への接触ですか?」
「その可能性が高いと判断しています。」
ざわめきはさらに大きくなった。
帝都の理論派研究官が立ち上がる。
「自然律は、地脈核そのものの“根本式”。
通常の魔導では触れられない領域のはずだ。」
「触れたのではありません。」
セレスティアの声が静かに響く。
「――“呼応した”のです。」
会議室が一斉に静まり返った。
そのころ、学院のロビーではアランとリリアが結果報告を待っていた。
リリアが腕を組む。
「なんか……すごく大ごとになってるわよね。」
「うん。副層のときより緊張するかも。」
「副層ではあんた、暴走地脈の真上に突っ立ってたじゃない。」
「……あれは、考える余裕なかったから。」
「そういうのを“すごい”って言うのよ。」
リリアはため息をつきながらも、少し誇らしそうだった。
そこへ、学院職員が走ってきた。
「二名とも、至急評定庁へ。
帝都上層部が直接、任務評価を行うとのことです。」
アランとリリアは顔を見合わせる。
「……本気で大ごとになってきたね。」
「いいじゃない。行くわよ、光導士候補生。」
「その呼び方、まだ慣れないんだけど……。」
リリアは笑ってアランの背中を軽く叩いた。
「慣れなさい。似合ってるんだから。」
評定庁・上層部会議室。
セレスティアに呼ばれて二人が入室すると、十数名の重役が静かに視線を向けた。
レオニールも列席している。
「アラン・ルクレディア、リリア・アルヴァイン。」
帝国魔導士団の長官が口を開く。
「灰哭副層での封印任務。
その働きは、帝国としても正式に評価に値する。」
アランが一歩前へ出る。
「ありがとうございます。」
「ただし――」
長官の視線が鋭くなる。
「今回の異常は“偶発”ではないと判断している。」
アランとリリアは目を見張った。
「どういうことですか?」
セレスティアが説明を引き継ぐ。
「灰哭副層での“逆流”は、帝国全土の魔脈観測値と同期していました。
つまり――どこか他の地脈でも、同じ異変が起きている可能性が高い。」
空気が重く沈む。
長官の言葉が続いた。
「そこで帝国は、新組織《律安定観測隊》の設立を決定した。」
「律……安定観測?」
アランが息を呑む。
リリアが横目でアランを見る。
「また肩書きが増えるわね。」
長官が告げた。
「アラン・ルクレディア。
リリア・アルヴァイン。
二名を、その初期メンバーとして任命する。」
アランとリリアは一瞬言葉を失い、やがてゆっくり頭を下げた。
「……承知しました。」
会議室の空気が変わる。
誰もが、この少年の光が――
帝国の未来そのものに関わり始めていることを悟っていた。




