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第55話:幻視 灰の記憶

……静寂。


音が消え、風も止まっていた。

アランが目を開けると、そこは灰色の世界だった。


空は鉛のように曇り、

地平線まで続く大地は、灰の砂に覆われている。

どこからともなく微かな光が差していた。


「……ここは……?」


手を伸ばすと、指先が粒子をすり抜けた。

まるで夢の中のように、輪郭が曖昧だ。


遠くで“何か”が動いた。

ゆらめく光の影――人の形をしているようにも見える。


「誰だ……?」


声をかけた瞬間、風が吹き抜けた。

その風の中から、柔らかな声が響く。


――《光ノ継承者……汝、何故導ク?》


アランの胸の符文が淡く光る。

「……あなたは、誰なんですか?」


――《我ハ“リツ”。地ヲ流レ、時ヲ渡ル理ナリ。》


アランは息を呑んだ。

(地脈核の……意識? いや、もっと根源的な存在だ。)


風に乗って、灰の中に映像が流れ込む。

荒れ果てた都市、崩れ落ちる塔。

その中心で、光を纏った魔導士たちが封印陣を描いていた。


「これ……灰哭の封印だ。」


――《彼ラハ求メタ。秩序ヲ。

  ダガ、秩序ハ流レヲ縛リ、命ヲ止メタ。》


アランの足元に、ひび割れた魔導陣が浮かぶ。

そこから立ち昇る光が、灰の空を裂いた。


「……封印って、守るためじゃなかったのか?」


――《守護ハ停滞。停滞ハ崩壊。

  汝ノ光ハ、導カナラズ“選択”ノ灯。》


(選択……?)


アランは空を見上げる。

雲の向こうに、まるで“瞳”のような輝きが見えた。


――《我ハ問ウ。光ハ何ヲ救ウ? 何ヲ捨テル?》


その瞬間、足元の大地が崩れた。

灰が渦を巻き、過去の記憶が一気に流れ込んでくる。


地脈が暴走し、都市が飲み込まれていく。

逃げ惑う人々、崩れる塔、溢れ出す光の奔流――。


(これが……“灰哭”の名の由来……!)


アランはその中心に立っていた。

光の流れが彼の身体を貫く。


「俺は……もう同じことは繰り返さない!」

「封じるためじゃない――導くために光を使う!」


すると、灰の世界が静まり返った。

空に走っていた裂け目がゆっくりと閉じていく。


――《良イ……。汝、光ノ理ヲ知ル資格アリ。》


淡い人影が近づき、アランの掌に小さな光の粒を乗せた。


――《此ハ、“律ノ欠片”。

  汝ガ共鳴スル時、新シキ理トナル。》


その光は彼の胸へ吸い込まれ、

記録符が静かに輝きを放つ。


「律の……欠片。」


視界が揺らぎ、

灰の空がゆっくりと白に溶けていく。


遠くで、リリアの声が聞こえた。

「アラン――起きて!」


――まぶしい光。


彼は目を開けた。

そこは再び灰哭副層の中央、崩れた封印陣の上だった。


リリアが彼の肩を支えていた。

「よかった……気を失ってたのよ。」

「……少し、長い夢を見てた気がする。」


胸の符文が淡く光り、

その奥で微かな声が囁いた。


――《導ケ、光ノ継承者。》


アランは静かに息を吐いた。

「……わかった。今度こそ、導いてみせる。」


リリアが不思議そうに首をかしげた。

「何を?」

「世界を。……止まったままの理を。」


封印陣の中心で、

再び光が小さく脈打った。


それは、眠れる“律”が微笑んだような、穏やかな輝きだった


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