第53話:余波 灰哭の再起動
帝国魔導学院・研究棟地下。
地脈観測室の計測盤が、静かな警告音を発した。
セレスティア教官は記録官たちを集め、
立体魔導盤に映る波形を凝視する。
「……確定ね。封印核から微弱な共鳴反応。
しかも周期が安定している。」
「安定、ということは――」
「意図的な波よ。」
セレスティアの表情が硬くなる。
その頃、アランは学院本棟の講義室で、
次の課題“共鳴理論の応用”の資料を読んでいた。
隣の席ではリリアがノートを取っている。
だが突然、机上の魔導灯がちらついた。
「……停電?」
「いや、導管の流れが乱れてる。」
アランが手をかざすと、
掌の中で光が微かに震えていた。
(……この揺らぎ、覚えがある。)
胸の奥がざわつく。灰哭副層で感じた、あの独特な脈動。
講義室のドアが勢いよく開く。
セレスティア教官が現れ、緊急指令を告げた。
「全員、即時待機。――地脈核の再共鳴を確認。」
ざわめきが一瞬で走る。
アランとリリアが顔を見合わせた。
「共鳴……? まさか、私たちの実験が――」
「違う。だけど……関係ないとは言えない。」
研究棟へ移動した二人を迎えたのは、
明滅を続ける魔導盤と、空気を震わせる低い唸りだった。
地脈観測図が空中に展開され、
灰哭副層の中央――封印されたはずの核座標が脈動している。
「反応の起点は昨日の共鳴波形。
光と風の干渉が、封印陣の奥に“新しい導線”を作った可能性があります。」
研究員が震える声で報告する。
リリアが息を呑む。
「導線……つまり、地脈が“繋がった”ってこと?」
セレスティアは短く頷いた。
「おそらくね。封印を貫くような細い流れが発生している。
このままでは共鳴が拡大して――再起動する可能性がある。」
「再起動……」アランが呟く。
胸の奥に、かつての灰哭の記憶が蘇る。
あの静寂と、息が詰まるような圧。
「教官、現地に行かせてください。」
「危険よ。まだ内部構造が不安定なの。」
「でも、俺の光が原因のひとつなら、俺が止めるしかない。」
リリアも前に出る。
「私も行きます。共鳴を扱えるのは、アランだけじゃありません。」
セレスティアはしばらく二人を見つめ、
やがて小さく頷いた。
「……わかったわ。第一区画までなら許可する。
ただし、何か異常があれば即撤退。それが条件。」
「わかりました!」
転移門の光が再び展開される。
灰哭副層――封印から数週間しか経っていないはずの地脈が、
まるで生き物のように光を脈動させていた。
アランが小さく呟く。
「……やっぱり、終わってなかったんだな。」
リリアが杖を構え、
風を呼び起こす。
「じゃあ、もう一度確かめましょう。
――あの光が、何を“導こう”としてるのか。」
転移の光が彼らを包み込む。
静寂と共に、再び“灰哭”の地へ――。
その背後で、観測盤の数値が跳ね上がった。
封印核の中心に、
誰も知らない“新しい符文”が浮かび上がる。




