第52話:揺らぐ理論 共鳴の副作用
共鳴実験の翌朝。
学院研究棟の最上階では、実験記録の解析が続けられていた。
セレスティア教官は観測盤の前に立ち、
昨夜の波形データを何度も巻き戻して確認している。
隣の研究員が報告を上げた。
「共鳴値は理論上限を超えて安定しています。
ですが――ここの値、見てください。」
指差した箇所には、わずかに歪んだ波。
それは本来存在しない“第三の干渉”を示していた。
「光と風の中に……もう一つの位相?」
セレスティアの声が低くなる。
「……観測誤差ではないのね。」
「はい。何度再測定しても同じ反応が出ます。」
セレスティアは小さく息をつき、
「報告は保留に。本人たちにはまだ知らせないで。」
とだけ告げた。
同じ頃、学院中庭。
アランとリリアンは、
芝生に座りながら実験の反省をしていた。
「昨日の結果、すごかったね。」
アランが微笑む。
「共鳴値、学院記録更新だって。」
リリアは得意げに胸を張った。
「当然よ。私の風が完璧だったもの。」
「はいはい。」
アランは苦笑しながら、手元の記録符を眺めた。
だが、その表面に一瞬だけ黒いノイズが走った。
「……?」
「どうしたの?」
「いや、今、符文が少し――」
言いかけて、すぐに光が戻る。
「……気のせいかな。」
リリアは首をかしげた。
「寝不足じゃない? 昨日、夜遅くまでデータまとめてたでしょ。」
「まあね。少し休もう。」
二人は芝の上に寝転がり、雲の流れる空を見上げた。
「ねえ、アラン。」
「ん?」
「もしさ――あの共鳴が、もっと別の属性ともできるとしたら?」
「別の属性?」
アランは空を見つめたまま考える。
「例えば、光と水とか? 光と闇とか?」
「そう。理論上は“干渉”が起こるだけって言われてるけど……
私たちの式なら、響かせることができるかも。」
アランは少し笑った。
「また危ない発想だね。でも――面白い。」
リリアが顔を向ける。
「じゃあ、今度一緒に試してみる?」
「うん。今度は俺が風に合わせる番だ。」
二人の笑い声が、柔らかい風に溶けていった。
その頃、研究棟地下の観測室。
自動記録装置が低く唸りを上げ、
封印済みの灰哭副層の魔力データを解析していた。
波形の端に、昨日まで存在しなかった“光の点”が浮かび上がる。
それは淡く瞬きながら、まるで呼吸するように明滅していた。
セレスティアの通信石が鳴る。
「――教官、封印区域で微弱な共鳴反応を検出しました。」
「どの属性?」
「光です。ですが……同時に“風”の波も。」
セレスティアの表情がわずかに曇る。
「やはり……共鳴の余波が、地脈核に届いたのね。」
窓の外では、遠くの空に白い雲が流れていた。
その影が帝都の塔群に落ち、
まるで次の嵐の前触れのように静かに揺れていた。




