第46話:共鳴の光 風が導く爆発
灰哭副層・第二区画。
霧の奥から、再び影が立ち上がった。
今度は一体ではない。三体、四体、いやそれ以上――。
人の形をしているのに、どれも顔がなく、動くたびに霧がざわめく。
「数が多すぎる……!」
リリアが息を呑む。
アランは、周囲を見渡しながら叫んだ。
「班員は退避! ここは俺たちが食い止める!」
他の学生たちは後方へと下がり、観測装置の護衛に回る。
灰哭体たちは音もなく滑るように前進してくる。
その動きはまるで、誰かの意志で操られているかのようだった。
リリアが詠唱に入る。
「《テンペスト・フィールド》!」
杖の先から風が走り、霧を吹き飛ばす。
強風が渦を巻き、周囲の灰を巻き上げた。
アランは光を掌に集める。
「リリア、風で流れを作ってくれ!」
「了解!」
風の流れが変わり、目の前に一本の“空気の道”が開く。
そこだけ霧が晴れ、まっすぐに視界が通った。
アランがその中心に手を突き出した。
「――《ホーリー・バースト》!」
光が一瞬で膨れ上がる。
リリアの風がその光を包み込み、流れを導く。
次の瞬間――轟音とともに、まばゆい閃光が炸裂した。
爆発的な衝撃が霧を切り裂き、影の群れをまとめて吹き飛ばす。
灰哭体たちは苦しむように声を上げ、霧の塊ごと崩れ落ちた。
「すごい……! 一気に消えた!」
リリアの声に、アランは息を整えながら頷く。
「まだだ、気を抜くな!」
地面が再び揺れた。
灰の床が波打ち、奥から鈍い唸りが響く。
「アラン……地脈が暴れてる!」
「っ、あの攻撃で刺激したか!」
通信が入る。
『こちら観測塔、セレスティア。地脈核の共鳴値が急上昇中!
全班、退避経路を確保しなさい!』
アランは息を整えながら答える。
「教官、避難は無理です! 出口側にも霧の反応があります!」
通信が一瞬途切れた。
次に響いた声は、いつもより冷静で、それでいて厳しかった。
『アラン、リリア。あなたたちは“光と風の共鳴点”にいる。
魔脈を乱すのではなく――合わせて、鎮めなさい。』
「……鎮める?」
アランが呟くと、リリアが頷いた。
「攻撃じゃなくて、制御……ね。」
アランは目を閉じ、深く息を吸う。
「光は放つだけじゃない。調和させることもできる。」
「なら、風で包むわ。」
二人は同時に詠唱を始めた。
「《ルーメン》――光よ、導け。」
「《テンペスト》――風よ、守れ。」
光と風が重なり、広がっていく。
白い輝きが霧を押し返し、影を溶かしていく。
灰哭体たちは次々と形を失い、空気の中に消えていった。
やがて、霧のすべてが晴れた。
地脈の光が穏やかに脈動を取り戻している。
「……やったのか?」
リリアが小さく笑う。
「うん、たぶんね。」
アランも笑い返した。
「光と風、やっぱり相性いいな。」
そのとき、通信が入った。
『二人とも、よくやりました。地脈の反応が安定しました。――ですが、油断は禁物。』
「了解です、セレスティア教官。」
アランが返事をすると、教官の声にわずかな安堵が混じった。
霧が晴れた空間の奥、崩れた壁の向こうに光の門が見えた。
そこが――第三区画への入り口だった。
「行こう。」
「うん。次は、もっと深くまで。」
アランとリリアは並んで歩き出した。
灰哭の地の奥で、まだ見ぬ“核心”が彼らを待っていた。




