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第42話:出発 灰哭副層への転移

朝靄の残る帝都の街並みを抜け、アランたちは学院裏手の転移棟へと向かっていた。

白銀の門柱に刻まれた符文が、朝の光を受けて淡く輝く。

――《アーク・ゲート三号》。

灰哭副層へとつながる、帝国研究局専用の転移門である。


「到着、っと。」

リリア・アルヴァインが息を整え、手にした転移許可証を確認する。


「緊張してる?」

アランが聞くと、リリアは首を振った。

「してるのは、あなたのほうでしょ。」

「……否定はできないな。」


門前にはすでに数名の研究局職員と、護衛の魔導騎士たちが待機していた。

セレスティア教官がその中央に立ち、全体へ向かって指示を出す。

「各班、魔力同期の確認を。記録符は全員、左胸に装着済みですね。」


学生たちは頷き、順に同期装置を起動する。

淡い光の紋が胸の装具に浮かび、魔力の流れが一斉に共鳴した。


「よし、同期完了。では、灰哭副層への転移を開始します。」


セレスティアが杖を掲げると、門の中心がまばゆい光に満たされた。

空気が震え、視界が波打つ。

転移陣が稼働し始めたのだ。


リリアが隣で小さく呟く。

「これが……副層の転移門。」


アランは光に包まれる門を見つめ、静かに息を吐いた。

(あのダンジョンに戻る。けど、今度は違う。)


セレスティアの声が響く。

「恐れる必要はありません。光は、あなた方が“導く側”です。」


その言葉と同時に、足元の魔法陣が輝きを増した。

風が渦巻き、視界が白に染まる。

次の瞬間――彼らの身体は、光の粒となって転移門に吸い込まれていった。


まぶしさが収まると、そこは灰色の空が広がる静寂の地だった。

石と金属の混じる大地が続き、地表の至るところに魔力の揺らぎが走っている。

空気は薄く、耳の奥で低い唸りが響く。

それが“灰哭”と呼ばれる所以だと、誰もが直感した。


「……ここが、灰哭副層。」

リリアが息を呑む。


アランは地を踏みしめながら周囲を見渡した。

遠くに、帝国の観測塔が霞むように立っている。

その根元から無数の導管が地中へ伸び、魔脈の光が淡く流れていた。


研究局員の一人が声を上げる。

「各班、これより区域ごとに行動を開始します。観測装置の再起動と、局地魔力の安定化が目的です。」


セレスティアが頷き、学生たちに目を向けた。

「副層では、外部魔力の干渉が強くなります。感知系魔法を多用する者は、過負荷に注意しなさい。」


アランの手首に装着された制御腕環がわずかに光る。

脈動する魔力が、自分の鼓動と同調していくのがわかった。

(……懐かしい。けど、前と違う。今は“制御できる”。)


リリアが隣で風の流れを感じ取っていた。

「風が……震えてる。まるで、何かを拒んでるみたい。」

「それが灰哭の魔脈だ。光も風も、ここでは素直じゃない。」


アランは空を見上げる。

灰色の雲の隙間から、わずかに光が漏れていた。


セレスティアが全体に向かって声を上げた。

「副層は、ダンジョン本体の封鎖区域に隣接する地脈観測帯です。

観測区域は三層構造。現在いる地表部の第一区画で初期測定を行い、安定が確認でき次第、第二区画へ進みます。

 安全確認のため、各班は班長・副班長の指揮に従うように。」


リリアが短く息を吸い、アランを見る。

「……行こう。班長命令。」

「了解。副班長、出発します。」


小さな笑いを交わし、二人は足を踏み出した。

その先には、光と風の理が交錯する“未知の地”が待っていた。


同時刻、帝都の研究局観測室。

立体地図の上で、灰哭副層の魔力波形がわずかに揺らぐ。

研究官が眉をひそめる。

「魔脈流に異常値……? いや、これは……“共鳴波”か?」


セレスティアの助手が静かに答えた。

「光と風が、もう――反応を始めています。」


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